
■著者プロフィール

大河原昭夫
住友商事総合研究所
取締役所長
1973年住友商事入社。
海外運輸部、海外プロジェクト室、自動車部門、ロサンゼルス駐在(マツダ・モータース・オブ・アメリカ出向)、ワシントン事務所、情報調査部長などを経て、2006年4月より現職。
記録的な猛暑が続く中、先週、縁あって愛知県西尾市を訪ねる機会に恵まれた。時あたかも8月27日は西尾市と周辺の幡豆(はず)郡3町(一色町、吉良町、幡豆町)の合併協定調印式が行われ、来年4月1日をもって合併することが決定した。同合併協議会の関連ウェブサイトには「融合ビッグバンで未来を創ろう!-矢作川(やはぎがわ)と三河湾に育まれた歴史ある町」という文字が躍る。市町村の合併を進め大規模化することで地方財政基盤の強化と効率化を目指す「平成の大合併」の結果、全国の市町村数は1999年3月31日時点の3,232から2010年3月31日の1,727に減少しているが、新生西尾市の誕生もこの流れを汲んでいる。
西尾市と幡豆郡3町は合併後でも人口約16万人という比較的小さな行政単位であるが、西三河のこの地には日本一を誇る特産物が多い。西尾市は碾茶(てんちゃ)の生産に特化しており、これを原料として製造された「西尾の抹茶」は昨年2月に特許庁が認証する地域団体商標の「地域ブランド」を取得している。また、西尾市の洋ラン、一色町のウナギ、エビせんべい、そしてカーネーションなども市町村別生産量で日本一になったことがあるが、これらは意外と知られていない。このような素晴らしい宣伝材料を活かさない手はない。近年、東京では各地方公共団体のアンテナショップが活況を呈しているが、プロデューサー型人材を駆使した地方からの情報発信の役割が増していると言えよう。
このように日本各地を訪ねると地方のものすごい潜在力を感じることが多い。現場には農水産業でも製造業でも愚直なまでの品質重視のこだわりでいいものを創り、環境に配慮しつつ素材を最大限活用するという創意工夫が満ち溢れている。グローバル化が進み、地域(ローカル)が益々重要性を増す「グローカル時代」が到来している。国民の意識の多様化が進む中、中央集権から地域主催への流れは不可避であろう。日本各地に存在する長年培われてきた輝かしい歴史を誇るさまざまな産業を大事にしつつ、時代の変化への的確な対応を図ることが今日ほど求められていることはない。
因みに西尾市は自動車産業の一大集積地でもあり、現下の円高の影響は極めて深刻に捉えられていたが、訪問中お会いした最大手の抹茶会社の社長によると現在、同社の抹茶生産の約2割が欧米に輸出されている由であり、進行するユーロ安とドル安で頭が痛いとの話が特に印象に残った。
目下の話題は専ら民主党代表選。消費税、普天間問題などが主要な争点として注目されているが、足許の円高対策、地域経済の活性化など待ったなしの対応を迫られる問題が山積している。しかし、いずれも容易には即効性のある対策が見出し得ない問題でもある。結局のところ、潜在力溢れる我が国の地域経済を最大限活かすような政治の仕組みを構築し、実効性のある政策を実行してゆくことが、迂遠のようではあるが、今後の我が国の持続的成長を図る上で最善の方法ではなかろうか。

