住商総研 ワールド・フォーカス2008年10月号(No.32)

景観

無極化する国際秩序と世界金融危機

2008年10月10日

■著者プロフィール

大河原昭夫

大河原昭夫

住友商事総合研究所 
取締役所長
1973年住友商事入社。
海外運輸部、海外プロジェクト室、自動車部門、ロサンゼルス駐在(マツダ・モータース・オブ・アメリカ出向)、ワシントン事務所、情報調査部長などを経て、2006年4月より現職。

1年前からのサブプライム危機で揺れ動いていた世界の金融市場は、9月15日の米リーマンブラザース経営破綻を発端として新たな局面に突入した。10月に入ってからも事態は沈静化するどころか、世界の金融を揺るがすビッグニュースが連日の如く飛び込み、混迷は深まるばかりである。世界同時不況が取沙汰される中、世界中の株式市場で連日株価が急落している。IMFは10月8日に発表した世界経済見通しのなかで、「1930年代以降で最も深刻な成熟市場における金融ショックに直面し、世界経済は大幅な減速局面にさしかかっている」と総括した。今回の金融危機は「100年に一度」の事態という見方が日増しに現実化しており、このような深刻な雰囲気の中、本稿も急遽予定稿を差し替えざるを得なくなった。

米国発の金融危機は、最早世界中に拡がっているが、世界で起きているパワーバランスの変化がその解決に向けた取り組みを複雑化させている。冷戦崩壊後、米国一極支配の時代が続いたが、ここに来て、米国経済の地盤低下、ドルの信任低下に加えて、政治、安全保障分野でもBRICsの台頭、ロシアの復権、イランやベネズエラ等反米諸国間の連帯強化などの動きもあり、米国の威信が低下している。このような流れを捉えて、今や、世界はmulti-polar(多極化)ではなくnon-polar(無極化)の時代に入った(リチャード・ハース米外交問題評議会会長)ということが言われている。世界はまさに「無極化する国際秩序」状態下で現在進行中の金融危機に取り組まねばならない事態に追い込まれている。

米国内だけを見てもブッシュ政権のレームダック化が進み、政権の主要メンバーが既に去ったか、去りつつある中で金融危機に見舞われたことが事態を悪化させている。来る11月4日の米大統領選でオバマ、マケイン何れの候補が当選したとしても、新大統領の就任は来年1月20日であり、政府の主要人事が固まるのには更に半年近くかかるのが通例である。今回は緊急対応で何らかの方策が打たれるものと思われるが、まさに米国そのもののガバナンスが問われている。9月29日に米下院で金融安定化法案が否決されたことが象徴的であるが、どちらが大統領になったとしても、連邦議会の力が増すことは間違いなく、今後益々政策面での不確実性が高まることになろう。何れにしても国際場裡での米国の威信低下の流れはそう簡単には変わりそうもなく、世界中のさまざまな問題の解決は遅々として進まず、まさに「国際秩序の無極化」状態が続くと見ておく必要があろう。

このように国際秩序が混沌とする状況が続くと予想される一方で、資源ナショナリズム、金融機関の国家管理強化等、現在の世界の動きは明らかにこれまでの「官から民」ではなく、「民から官」への揺り戻しの流れとなっている。これは、民間企業にとっては規制強化とコンプライアンスリスクの高まりというビジネス環境を意味する。これから暫くは、官民共により一層ガバナンスが鍵を握る時代を迎えたことを痛感させられる。

↑このぺージの先頭へ