食料ビジネス(Food business)

トレーディングビジネスから事業投資へのシフト

2003年に入社した田中啓之(左)。飼料原料、穀物加工など、一貫して食料ビジネス分野で働いてきた。「一人の人間として成長させてくれる会社に入りたかった」というのが住友商事に入社した理由だ。増田耕治は2006年の入社。経理部などを経て、「これから伸びていく」と感じた食料部に自ら手を挙げて異動した。オーストラリア・エメラルドへの出向も経験。「文化の異なる人たちと一緒に仕事をするのは難しいが、それだけやりがいもある」と話す

ビジネスにおける投資の目的は、第一に金銭的な成果にある。しかし、収益のみが常に事業投資の目標となるとは限らない。投資によって事業の運営を効率化し、商品の流通を安定させること。さらにそれによって、人々の日々の生活を支えていくこと。それが住友商事の食料部が掲げる事業投資のビジョンである。

トレーディングビジネスから事業投資へのシフト

海外の資源や商品を日本に輸入し、日本の商品を海外諸国に届ける──。そのようなトレーディングビジネスを担うことが、古くは総合商社の主な役割だった。総合商社が持つその機能が、近代以降の日本と世界の結びつきを大いに促進してきたと言っていい。

今日もなお、トレーディングビジネスは総合商社の重要な仕事であり続けている。しかし、必ずしもそれがビジネスの「本丸」と言えなくなっているのは、1990年代以降、日本の総合商社は事業投資会社としての性格を強めてきたからである。国内外の様々な事業に積極的に投資をし、商品の生産と流通のプロセスの主体となっていく。それが現代の総合商社の一つの姿だ。

住友商事において、そのような転換を体現している分野の一つに、食料ビジネスがある。2005年、オーストラリアで穀物倉庫の運営と輸出事業を手掛けるオーストラリアン・バルク・アライアンス(以下ABA)の株式を50パーセント取得し、日本企業として初めてオーストラリアにおける穀物流通のインフラ事業に本格的に進出した。それがこの事業分野における「トレードから投資へ」の最初の転換点だった。

「当時、アジア地域における人口増加によって、穀物や油脂原料の需要が高まりつつありました。海外の食料を日本のメーカーや消費者に届けるという従来のビジネスに加えて、食料流通の基盤を確保して、アジア各国に安定的に食料を供給する事業を確立すること。それが投資の大きな目的でした」

そう話すのは、食料部穀物開発チームの増田耕治だ。その後、同じくオーストラリアの穀物集荷・販売会社エメラルド・グレイン(以下エメラルド)に出資し、ABAとエメラルドの経営統合を実現させた。これによって生産地で穀物を集荷し、それを港から海外へと輸出する過程をトータルに運営する仕組みをつくり上げた。さらに昨年(2014年)2月には、エメラルドを完全子会社化し、シナジーの最大化を図っている。

バリューチェーンを構築し食料の量と質を安定させる

この10年ほどの間に、小麦の一大生産地であるオーストラリアに事業基盤を確立した。2015年1月に日本・オーストラリア間で経済連携協定(EPA)が発効したことによって、今後、日本とオーストラリアの経済的な結びつきがさらに強まり、穀物の取り扱い量も増えることが予想されている

バリューチェーンを構築し食料の量と質を安定させる

それらの投資が食料ビジネスのバリューチェーンにおける「川上」に対するものだとすれば、シンガポールに拠点を持つアジア最大級の製粉企業、プリマとの提携と事業投資は「川中」から「川下」をターゲットとしたものだ。食料部食料製品チームの田中啓之は説明する。

「この投資によって、原料を加工してアジア各国に販売する事業にも参画することが可能になりました。さらに2012年には、オーストラリア最大級の冷凍パン生地メーカーであるヤローズの事業を買収し、オーストラリアにおける加工製造の基盤も確保しています。現在は、原料調達、つまり川上の領域と、川中、川下に当たる加工販売の領域を効率的につなげていくバリューチェーンのモデルを構想しているところです」

食料ビジネスのバリューチェーンを一社で完結させることによって、供給量が安定するだけでなく、品質の安定化も実現すると田中は言う。

「原料の調達、輸出入、加工生産、販売といったそれぞれのプロセスで一貫したマネージメントを行うことが、メーカーや消費者に提供する商品の品質に直結する。そう私たちは考えています」

アジア各国では、経済成長にともなって人々の生活水準が年々向上している。生活水準が上がれば、食品に求める消費者のニーズも上がっていく。日々高まり続ける人々の欲求の水準にいかに応えていくか。それが、アジア・オセアニア地区で食料ビジネスを展開する企業に求められている課題だ。川上から川下に至るバリューチェーンの構築と運営によってその課題を解決していくというビジョンを、食料部は掲げている。

食料資源に乏しい日本へ確実に食料を届ける

シンガポールのプリマや国内の子会社との連携により、小麦や菜種などを原料とする製品の生産も手掛ける。今年(2015年)中に、韓国企業との合弁による小麦粉生産工場が新たにベトナムで稼働する予定だ

食料資源に乏しい日本へ確実に食料を届ける

国連の予測では、2050年に世界の人口は現在よりもおよそ20億人増の95億5000万人に達するとされている。特に人口増加が著しい地域の一つがアジア・オセアニアだ。しかしそのアジア地区にあって、日本の人口はすでに減少に転じている。内閣府の予想によれば、やはり2050年には、日本の人口は1億人を割り込むという。

今後の長期的な食料ビジネスを展望するに当たって、国内よりも国外を重視しなければならない理由がここにある。しかし、例えば、英国とフランスの現在の人口が約6400万人、EU最大の人口を擁するドイツにおいても約8000万人であることを考えれば、1億人を割った日本であっても、依然として有力な市場であることに変わりはない。何よりも、食料資源に乏しいわが国へ海外の食料を確実に届けるという重要な役割が、食料ビジネスを手掛ける企業にはある。

「グローバルなバリューチェーンを構築することによって、日本市場にも継続的に質の高い食料を届けることが可能になります。それだけでなく、日本の食料メーカーの担当者とともにオーストラリアの小麦生産地を視察したり、逆にオーストラリアの農業関係者を日本に招待したりするなど、生産地と消費地をつなぐという重要な役割が私たちにはあると考えています」

そう増田は話す。

「縁の下の力持ち」として人々の日々の生活を支える

チーム間で頻繁に情報交換やディスカッションを行う。川上から川下に至るバリューチェーンを構築するには、それぞれのプロセスの担当者同士がビジョンを共有する作業が欠かせない

「縁の下の力持ち」として人々の日々の生活を支える

これまで住友商事の食料ビジネスの規模は、他の総合商社に比べると決して大きくはなかった。「トレードから投資へ」の転換を果たした今、この分野をいっそう成長させていくことが、現在の住友商事全体の一つの目標となっている。

「グローバルに食料ビジネスを展開する世界の競合相手に伍(ご)するようなビジネスを自分たちの力でつくっていくこと。その目標に向かって私たち一人一人が努力していかなければなりません」(田中)

食料ビジネスは、日の当たる仕事ではないかもしれない。エンドユーザーである消費者の口に入る最終商品の前段階を主に担うのがこのビジネスの役割だからだ。しかし、食料部の働きがなければ、パン、麺、冷凍食品、菓子といった食品が人々の日々の食卓を彩ることはない。一人一人の生活者の血となり、肉となり、明日を生きる活力となる。そんな商材を陰で支えているのが食料ビジネスにほかならない。その「縁の下の力持ち」としての役割に対する誇りが、田中や増田をはじめとする食料部の社員を支えている。

「常に何が世の中のためになるのかを考え、世の中に役立つことに喜びを感じる人間でありたい」と増田は言う。ビジネスの収益とは、人の役に立ったことの対価なのだと。人々の役に立つための投資、人々の日常を支えるための投資──。それが住友商事の食料ビジネスにおける事業投資にほかならない。その志を掲げながら、食料部の社員たちは、日々の課題に挑み続けている。

(敬称略)

  • 「たとえ現場から離れたところにいても、常にビジネスの最前線のことを思いながら働きたい。いつもそう考えています」変わりゆく時代に、変わらない信念を。
  • 「市場の生の声に耳を傾け、そこから新しいものを生み出していくこと。それが総合商社の重要な役割です」変わりゆく時代に、変わらない信念を。
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