リテイルビジネス篇
ライフスタイル・リテイル事業本部 本部長 田中恵次

83年の入社後、主に繊維分野で働いてきた田中恵次。事業会社の社長などを経験したのち、14年4月にライフスタイル・リテイル事業本部の本部長に就任した。「これまでで一番苦労したのはミラノ駐在」と振り返る。「30代の前半に、繊維・ファッション分野の初代駐在員として“未知の市場への挑戦”の旗を掲げイタリアに赴任しました。ゼロからのビジネスの立ち上げで、昼夜を問わず、試行錯誤、七転び八起きの連続でした。語学や文化風習の勉強を含め、あそこまで自分を追い込んで必死になった日々は忘れられません」。困難を乗り越えたその経験が、現在も自身の支えとなっていると田中は言う。「これからの商社には社会的課題を解決する力が求められる」というのが持論だ。「課題を解決することで社会に貢献する。それによって新しいビジネスモデルが生まれる。そのような循環を作ることに力を注いできたいと考えています」

様々な分野で特色ある小売り事業を展開

1996年に公開された映画『スーパーの女』は、倒産寸前の食品スーパーを徹底した顧客視点で立て直していく物語である。規模や売上げにおいて日本一になることはできないが、「日本一お客さまの立場に立つ店」を目指すことはできる──。そんな目標を掲げて、肉、魚、野菜などの売り場やバックヤードを根本的に改革し、仕入れを見直し、惣菜の質を高め、「より新鮮なものを、より安く」売るためのあらゆる努力を続けた結果、ついにスーパーは顧客の信頼を取り戻すことに成功する。

この映画の製作に全面的に協力したのが、住友商事のグループ会社のサミットだった。劇中では、食品スーパーの経営と現場運営に精通した人にしか分かるはずのないディテールが描き込まれているが、それらはすべて実際のスーパーでの経験に基づいたものだった。

現在首都圏で113店舗を展開し、東京都内の食品スーパーで売上高トップを誇るサミットの1号店がオープンしたのは、今から半世紀以上前の63年である。貿易が主ななりわいであった総合商社が、生活者との直接の接点である小売り事業に本腰を入れて取り組むのは、当時としては異例であった。

「米国をモデルとするスーパーマーケットの勃興期であり、スーパーに注目が集まっていた時代でした。自分たちもひとつチャレンジしてみよう。そんなふうにして始まった事業が今日まで続いているというわけです」
そう話すのは、ライフスタイル・リテイル事業本部の本部長、田中恵次だ。ライフスタイル・リテイル事業本部は、サミットをはじめとする様々な小売り事業を統括する役割を担っている。

「当本部が管轄している小売り事業は、サミットに加え、ドラッグストアのトモズ、テレビ通販で国内最大の売り上げ規模を持つジュピターショップチャンネル、日用品Eコマースの爽快ドラッグのほか、フェイラー、ナラカミーチェ、マーク ジェイコブスといった海外のファッションブランドの輸入販売などがあります。それぞれが、強みを発揮できる得意のセグメントでトップクラスに位置しており、“ニッチ・ジャイアント”と私は呼んでいます」

首都圏に113店舗(15年末現在)を展開するサミット。東京都内の食品スーパーで売り上げトップを誇る。食材の鮮度に徹底的にこだわった食品スーパーだ。店名は、頂点を意味する「summit」と住友のローマ字表記(Sumitomo)にちなんでいる。

国内で培ったノウハウを活かして海外へ

調剤薬局併設のドラッグストアチェーン、トモズの第1号店は94年のオープン。現在、首都圏を中心に147店舗を展開している。
「3年前には、日本と同じトモズという店名で台湾でも展開を始めました。日本で培った経営のノウハウを活かし、“明るく見やすくきれいに整然と”という店づくりのコンセプトも踏襲しています。丁寧な接客や品揃えが台湾市場にも受け入れられ、台北を中心に現在15店まで店舗を増やしています」

一方、テレビ通販事業のジュピターショップチャンネルは96年にスタートしている。日本で初めて生放送を取り入れたショッピング専門チャンネルであり、現在は24時間365日生放送を行っている。
「ケーブルテレビや衛星放送などを通じてショップチャンネルを視聴できる世帯は、全国2871万世帯に上ります。ファッションアイテム、コスメ、家庭用品、健康グッズなど、世界中から厳選した商品を毎週約700点紹介しており、創業以来18年連続で売り上げを伸ばしています。13年からはタイでの展開も始めました」

テレビ通販最大手のジュピターショップチャンネル。毎週約700アイテムをライブ感あふれる生放送の番組で紹介し、販売している。

イタリアの婦人向けシャツのブランド「ナラカミーチェ」と、ドイツの高級織物ブランド「フェイラー」の直営店。いずれも、ライフスタイル・リテイル事業本部の事業会社、住商ブランドマネジメントが手掛けるブランドだ。

「目に見えない総合力」によって良質な商品を届ける

住友商事グループのリテイル事業の強みは、様々な販売チャネルやアイテムを擁していることだけではない。総合商社ならではの総合力を発揮し、事業間での連携を積極的に推進している点に大きな特長がある。
例えば、フェイラーやナラカミーチェなどの商品は、直営店や百貨店だけでなく、ジュピターショップチャンネルでも販売されている。また、それらのブランドの一部商品の製造もグループ会社で手掛けている。アパレルの企画・製造、仕入れから販売までのバリューチェーンのプロセスのほとんどを担う垂直統合型のモデルが成立しているということだ。

サミットのビジネスも、社内の連携による総合力が発揮されているモデルだ。バナナや豚肉といった住友商事が強みを持つ商材の調達や、物流センター運営だけでなく、店舗物件の開発、システムの保守・メンテナンスなど、社内の各営業部署がスクラムを組んでサミットを後押ししている。生活者に良質な商品を確実に届けるための幾層にも重なった活動。サミットの店頭に毎日新鮮な商品が並ぶのは、いわばその「目に見えない総合力」の貢献が大きい。

経験を還流させるダイナミックな人材ローテーション

ライフスタイル・リテイル事業本部は、BtoBビジネスが多い住友商事の事業の中にあって、エンドユーザーである生活者との直接の接点でビジネスを展開しているという点でやや異質であると言っていい。本社内に小売り事業を抱えることの強みを田中はこう話す。
「サミットにもトモズにも住友商事の社員が出向しています。出向するとまず店舗に出てレジに立ち、商品を棚に並べ、魚を切り、惣菜を作り、クレームに直接対応します。社員自身がそのような仕事に携わり、お客さまのニーズをじかに受け止めることで、BtoBビジネスではなかなか実感できないような生活者の思いを感じ取ることができると私たちは考えています」

生活者との接点で得られるその経験を全社的な資産にするためには、部署を越えて経験を伝えていくことが必要になる。それを実現しているのが、住友商事独自の人材ローテーションの仕組みである。
「ライフスタイル・リテイル事業本部では、新入社員はまず本社側で数年間、小売り事業の経営のノウハウやロジックをマクロな視点で学びます。その後、事業会社に出向し、現場の仕事や店長職を経験して、小売りの本質をじかに肌で感じる経験を積みます。それによって、その後の店舗以外の部署や本社の仕事でも現場経験を生かすことができるようになります。また、小売りではない事業分野に異動した場合は、BtoBビジネスの領域に生活者の感覚をもたらすことができます」

田中がミラノ駐在を終えて帰国する際に現地スタッフからプレゼントされたという鉛筆立て。現在も、会社のデスク上で愛用している。

小売りの経験を積んだ社員が他の事業分野に移ってその経験値を広めることで、BtoBビジネスを主要な事業とする住友商事の全体に「生活者視点」が広まり、総合力が強化されることとなる。それがグループ内にBtoC分野があることの大きな意義であると田中は言う。

調剤薬局併設のドラッグストアチェーン、トモズ。店名は創業時に社内公募によってつけられたもので、「Sumitomo」の「tomo」と「Drugstore」の「DとS」を掛け合わせ、さらに地域の人々の「友」でありたいという願いを込めている。

総合力を生み出す人材の力

「総合商社には専門家の養成機関という側面があります。一つの事業分野に精通し、専門性を身に付けた社員がそれぞれの分野で戦うことが求められています。しかし、社会がいよいよ複雑化してくこれからの時代に、専門性だけで勝つことは難しくなるはずです。様々な事業分野の知見や、バリューチェーン全体の流れを見通すことのできる広い視野が今後はますます求められるようになるでしょう。いわば“幅広い経験と視野をもった専門家”を育成していくこと。それが本部を率いる私のミッションであると考えています」
部下が育っていく姿を見るのが何よりの楽しみと田中は語る。その成長のために、自分が現在持っているものすべてを惜しみなく提供したい、と。

総合商社のビジネスは多様な事業の集積であり、それぞれの事業を支えるのは多様な人材の努力と能力である。そう考えれば、総合商社の総合力とはまさしく人材力であるといってもいいだろう。社員一人ひとりの力を束ねてグループ全体の力とすること。その結果生まれる総合力を駆使して、変化し続ける社会に対して確かな価値を提供し続けること──。住友商事のゴールのない取り組みは、これからもずっと続いていく。

(敬称略/2016年2月掲載)

私が考える「住商スクラム」

様々な領域で発揮されている住友商事の総合力。それが「住商スクラム」だ。

「住友商事には、“利他”の精神が脈々と受け継がれていることを実感しています。他の部署と情報を共有し、“For The Company”の精神で動くことによって、それが回り回って自分たちに返ってくる。そのような“協力の連鎖”が住友商事のビジネスを支えているのだと思います」
──ライフスタイル・リテイル事業本部 本部長 田中恵次

ライフスタイル・リテイル事業本部 本部長 田中恵次
小宮悦子の視点

小宮悦子の視点

首都圏に住んでいて、サミットでもトモズでも買い物をしたことがないという人は少数派ではないでしょうか。それだけ私たちの生活に密着した店を、総合商社である住友商事が運営しているというのはちょっとした驚きでした。それ以上に驚いたのは、住友商事の社員が店舗の管理業務をするだけでなく、レジに立ったり、調理場で魚を切ったりと、まさにお客さまとの接点で日々働いているということ。そうやって私たち生活者と同じ目線で商品に接し、生活者の感覚を吸収することがビジネスをより豊かにしていくのですね。これからも、生活者感覚を忘れない総合商社であり続けてほしいと思います。

世界を変えるスクラム


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ひとが、未来をつないでく。住友商事