自動車関連ビジネス篇

総合力が最も広範に発揮されている分野

住友商事の本社が入る東京・中央区の晴海トリトンスクエア。自動車事業第一本部所属の長岡秀行、滝徹、大塚貴功の3人は、現在、その23階で国内外の関連会社を本社側からサポートする仕事を続けている。

長岡が担当しているのは、住友商事の100%子会社で、栃木の足利市に本社のある自動車部品メーカー「キリウ」。滝が担当しているのは、住友商事とマツダが合弁でメキシコに設立した自動車製造会社「マツダ・デ・メヒコ・ビークル・オペレーション(MMVO)」。大塚が担当しているのは、インドネシアの自動車ファイナンス会社「オト・ムルティアルタ(OTO)」と「サミット・オト・ファイナンス(SOF)」である。部品の製造、完成車の製造、自動車・二輪車の購入者への融資と、それぞれが管轄する分野は異なり、担当する企業が本拠を置く場所もまったく違うが、3人は同じフロアで日常的に情報を交換し、仕事について頻繁に相談し合う仲だ。

キリウの主力商品の一つ、ブレーキディスク。自動車のブレーキ部に広く利用されている部品だ。現在同社は、国内4拠点、海外9拠点で自動車部品の生産を行っている。

近年、世界有数の自動車生産拠点となっているメキシコ。住友商事はマツダとの合弁会社を同国に設立し、14年1月から完成車の量産を開始している。

自動車ビジネスは、数ある事業の中でもとりわけ裾野の広い分野である。原料の調達を最上流とし、部品製造、完成車製造、輸出、卸売り、小売り、融資、レンタル、リース、さらにはアフターサービス、リサイクルへと至る一連の流れの中に大小数千の企業が関わっている。住友商事もまた、その一社だ。しかし、他の多くの企業と決定的に異なるのは、バリューチェーンの川上から川下までのほとんどの領域でビジネスを展開しているという点である。

住友商事の自動車ビジネスは、「製造」「販売流通」「ファイナンス・リース」に大きく分けられる。製造はバリューチェーンの川上に、販売流通は川中に、エンドユーザーに近いファイナンス・リースは川下に当たる。川上から川下までを貫くビジネスのネットワークは、アジア、北米、中南米、ヨーロッパ、中近東、さらにはアフリカと、文字通り世界中に及んでいる。事業領域においても、ビジネスを展開している地域においても、極めて幅広い範囲をカバーしているのが住友商事の自動車ビジネスというわけだ。総合商社ならではの総合力が最も強力かつ広範に発揮されている事業分野といっていいだろう。

自動車製造事業第二部 完成車事業チーム長 滝 徹

88年の入社後、一貫して自動車ビジネスの分野で働いてきた滝徹。ウクライナ、ドイツでの駐在経験を持つ。取引先やお客様の喜ぶ顔を見ることができたとき、人のためになれたという実感を得られたとき──。そんな瞬間に仕事の達成感を感じると静かに語る。

積極的な事業投資でビジネスを拡大

住友商事がこの分野に乗り出したのは、1954年のことだ。日野自動車のバス20台を当時のビルマ、現在のミャンマーに輸出したのが最初だった。以後、国内各メーカーの自動車の輸出、海外での販社設立、卸売り事業への進出と、徐々にビジネスの領域を広げていった。

自動車ビジネスの拡大は、「トレーディングから事業投資へ」という業界全体の大きな流れと軌を一にしていた。総合商社のかつての主な役割は、製品や資材、食料などの輸出入だったが、90年代から2000年代にかけて多くの総合商社が、国内外の様々な分野に積極的に投資して、自ら事業を手掛ける道を模索し始めた。

こうした事業投資戦略が、住友商事において比較的早い段階で実を結んだのが、自動車ビジネスの分野である。キリウを買収してグループに迎え入れたのも、完成車メーカーとともに海外に自動車製造の拠点を設立したのも、インドネシアの自動車ファイナンス会社に出資したのも、事業投資戦略の一環だった。その戦略によって、住友商事は自動車ビジネスのバリューチェーンを網羅する体制を作り上げたのである。

「自動車ビジネスに関する非常に幅広い経験と知見を持つ住友商事──。自動車業界内でもそのようなイメージが定着しつつあることを感じています」と滝は言う。
「自動車に関するビジネスの相談を受ければ、社内の最適な担当者を紹介することもできるし、取引先を紹介することもできる。また、ともに新しいビジネスの枠組みを作ることもできる。それが現在の住友商事の自動車ビジネス分野の強みです」

自動車製造事業第一部 自動車製造事業第二チーム長 長岡秀行

長岡秀行も92年の入社以来、自動車畑一筋に歩んできた一人だ。インド駐在の期間を終えて帰国しようとするとき、現地の事業会社の社長が「長岡さんの駐在を延長してほしい」と本社に掛け合い帰国が延びたという逸話を持つ。「あれは本当にうれしかったですね」

互いの役割を踏まえて、ボートをともに漕いでいく

川上から川下に至る一連のバリューチェーンを成立させているのは、様々なプレーヤーとのパートナーシップである。M&A(合併・買収)、合弁、事業提携など、そのつど最適な手法で最適な相手とパートナーシップを結び、新しい事業分野、新しい地域に進出する。その取り組みの積み重ねによって、住友商事はビジネスの領域を広げてきた。

パートナーシップを組む際には、当然ながら、相手とのウィンウィンの関係が目指されなければならない。キリウは住友商事グループに入ることによって海外展開を加速させ、マツダはメキシコでの長いビジネス経験を持つ住友商事とタッグを組むことによって、現地に根を下ろすことに成功した。インドネシアのOTO、SOFにとって、住友商事の資金力はビジネスの拡大に欠かせないものだった。

住友商事の事業投資は、投資した企業のビジネスの成長に大いに寄与し、自社にも大きな利益をもたらしている。しかし、総合商社は投資ファンドではない。では、その違いは何か。長岡は説明する。
「戦略を立て、事業会社に投資をする。そこまではファンドと同じです。しかし、そこから先が異なります。私たちはお金を出すだけでなく、現場で働く皆さんと関わりを持ち、ともにビジネスを作り上げていくという視点を重視しています。つまり、自らが事業の主体になるということです。そこに総合商社としての経験やネットワークが生かされると考えています」

住友商事の社員は、自社の「ハンズオンの文化」についてしばしば言及する。投資した会社の事業に深く関わり、事業会社の人々と苦楽をともにするのが住友商事の文化なのだと。長岡もまた、その文化を大切にしている一人だ。もっとも、その「関わり」のあり方には常に細心の注意を払っている。
「私が担当するキリウの従業員はものづくりのプロです。一方、私たちは製造専業の事業者ではありません。プロの仕事の流儀を尊重し、その領域を侵害しないようにすることは最低限のマナーであると考えています」

互いの役割を踏まえ、関わりのバランスを考えながら、同乗するボートを力を合わせてともに漕いでいく。それが住友商事ならではのハンズオンの文化ということだ。

ビジネスの基盤となるのは人対人の関係

パートナーシップを支えるのは「企業対企業」の関係である以上に「人対人」の関係である。そう3人は口をそろえる。バリューチェーンがどれだけダイナミックになっても、現場における人間同士のコミュニケーションがうまくいかなければ、実りあるパートナーシップは成立しない、と。
「OTOとSOFでは、約1万人のインドネシア人の従業員が働いています。住友商事のビジネススタイルを彼、彼女らに伝えることはもちろん重要ですが、それ以上にインドネシアの人たちの文化や考え方を理解することが大切だと思っています。ともに理解し合うというスタンスがなければ、ビジネスを成功に導くことはできません」

大塚のその言葉に、滝もうなずく。
「企業文化や背景が異なる会社の社員がともに仕事をするわけですから、違いがあるのは当然です。粘り強くコミュニケーションを続けて、ギャップを埋めていき、一つ一つのことを実現させていくのがこの仕事の醍醐味です」

キリウと住友商事の社員がともに参加するソフトボール大会を最近始めたのも、インドネシアやメキシコでグループ社員が参加する駅伝大会を毎年開催しているのも、「ビジネスの基盤となるのは人対人の関係である」という信条が広く共有されているからだ。

住友商事の自動車関連ビジネスを牽引する3人。年齢も入社年度も異なるが、互いにいつでも相談し合える気が置けない仲だ。社員の日常のコミュニケーションが住友商事の総合力を支えている。

「人」とは、取引先やビジネスパートナーである企業の社員だけではなく、顧客だけでもない。ときに同僚であり、ときに上司であり、ときに部下である住友商事の社員たちの間にあるのもまた、人対人の大切な関係に他ならない。「社内での緻密なコミュニケーションが、社外の皆さんとの実りあるコミュニケーションにつながっていくと考えています」と滝は言う。

今後、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が発効することによって、国境をまたいだ住友商事の自動車ビジネスのバリューチェーンはさらに広がっていくことになるだろう。しかし、いかにビジネスの規模が拡大しても、一つ一つの事業を支えるのが、人と人との細かく、ときに厄介で、ときに喜びに満ちたコミュニケーションであることに変わりはない。本社の23階で3人は今日も、自動車ビジネスの明日を見つめながら、熱い対話を重ねている。

(敬称略/2016年1月掲載)

自動車リテイルファイナンス事業部 自動車リテイルファイナンス第一チーム長 大塚貴功

大塚貴功は98年の入社。航空宇宙ビジネスの担当を経て自動車分野への配属となった。今年(15年)の4月までインドネシアに5年半駐在していた。「ともに仕事をする仲間をリスペクトし、プロの商社マンとして人からリスペクトされる。そんな人間力を磨いていきたい」と話す。

インドネシアやメキシコでは、グループ社員が参加する駅伝大会が毎年開催されている。これはインドネシアの大会の記念写真。同国の大会は、写真の右端に写る大塚の提案で始まった。社員同士がコミュニケーションを深める絶好の機会になっているという。

私たちが考える「住商スクラム」

様々な領域で発揮されている住友商事の総合力。それが「住商スクラム」だ。

「自分の部署だけでなく、他の部署にとってもためになるような仕事がしたい。一人ひとりの社員がそのような意識を持つことが、会社全体の力を高めることになると信じています」
──自動車製造事業第一部 自動車製造事業第二チーム長 長岡秀行

自動車製造事業第一部 自動車製造事業第二チーム長 長岡秀行
自動車製造事業第二部 完成車事業チーム長 滝 徹

「一緒に仕事をしながら、長く付き合っていける会社──。事業分野を超えて様々な取引先からそう評価していただけたときが、私たちの総合力が発揮されたときなのだと思います」
──自動車製造事業第二部 完成車事業チーム長 滝 徹

「組織の間に壁を作らず、相手が誰であれ話をしっかりと聞く。そんな文化が社内に根づいていることを感じます。社員間の“思いやり”が総合力の基礎となっているのではないでしょうか」
──自動車リテイルファイナンス事業部
  自動車リテイルファイナンス第一チーム長 大塚貴功

自動車リテイルファイナンス事業部 自動車リテイルファイナンス第一チーム長 大塚貴功
小宮悦子の視点

小宮悦子の視点

総合商社というと、部品や完成した車を海外に輸出したり、燃料を海外から輸入したりするのが主な役割というイメージがあります。しかし実際には、部品や車体そのものの製造にも携わっていると聞いて、少し驚きました。まさに、「川上から川下まで」を貫くビジネスを手掛けているのですね。その広範なビジネスを支えているのが、いろいろな企業とのパートナーシップ。自社の中ですべてを完結させようとするのではなく、様々な相手と手を取り合うことによって、できることを一つ一つ増やしていく。そこに住友商事の「総合力」の本質があるのだと感じました。

世界を変えるスクラム


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ひとが、未来をつないでく。住友商事