安全な食料を得るために、国境を超えた挑戦が今、始まっている
アグリサイエンス部 投資・開発チーム長 田中 卓

98年の入社後、一貫して農業関連のビジネスに携わってきた田中卓。「18年間、同じ分野で働いてきましたが、まったく飽きることがありません。常に新しいことにチャレンジできる環境があるからです。これからもチャレンジを続けていきたいと思います」

生産者の要望に総合力で応える

責任ある農業投資──。日本の外務省がこの考え方を初めて提起したのは、2009年にイタリアで開催されたラクイラ・サミット(主要国首脳会議)でのことだった。世界の多くの国は、農作物の生産性を上げるための農業投資を必要としている。しかし、その投資が現地の環境やコミュニティーを破壊するものであってはならず、また農業生産者、投資受け入れ国、投資家の3者の利益が調和したものでなければならない。それが責任ある農業投資という言葉に込められた意味だ。住友商事がルーマニア、ブラジル、中国などで行っている食料・農業分野の事業投資は、総合商社という立場でそのような「責任」を果たそうとする試みといっていい。

住友商事で主に農薬ビジネスを手掛けてきたアグリサイエンス部がルーマニア最大の農業資材問屋であるアルチェドを買収し、農業に必要なさまざまな商品を農家に直接販売する事業モデルをスタートさせたのは11年のことである。「農業生産マルチサポート」と呼ばれるこの事業はその後、商品購入代金の立て替えなどのファイナンスサービスや、農作物の集荷サービスにまで拡大していった。生産者の活動を幅広くサポートする農協的サービス。それがこの事業のコンセプトだ。

「生産の前段階における肥料や種子、作物の育成過程における農薬、収穫後の集荷と、農家の皆さんが必要とする商品やサービスを包括的に提供することで、農業の生産性を向上させるのがこの取り組みの目的です」

そう説明するのはアグリサイエンス部の投資・開発チームを率いる田中卓だ。その「マルチ」なサービスを実現させているのが、商品調達力、ファイナンス力、事業開発力などを組み合わせた住友商事ならではの総合力である。「農業生産者のニーズにここまでトータルに応えるサービスを商社が提供している例は、他にないと思います」と田中は胸を張る。

農家の悩みを解決できる存在になりたい

この農業生産マルチサポートの第2弾となる事業が今年(2015年)に入って南米で本格的にスタートした。ブラジル中西部の穀倉地帯、マットグロッソ州における取り組みがそれだ。アグリサイエンス部はブラジルにおける最大級の農業資材問屋であるアグロ・アマゾニアに出資し、この5月、アルチェドに近いモデルで農家や畜産農家への農薬、肥料、種子、畜産資材など各種農業生産資材の販売を開始している。

「マットグロッソ州は大豆とトウモロコシの世界的な産地であり、これからの農地開拓が大いに期待されている地域でもあります。日本の国土の2.5倍の面積を持つこの土地で農作物の収量を上げることによって、国内外の多くの人たちに食物を届けられるようになる。そう私たちは考えています」

1年半にわたってアグロ・アマゾニアとの資本提携交渉を進めてきたアグリサイエンス部の細田薫はそう話す。田中の直属の部下に当たる細田は、ルーマニアにおける田中の経験に学びながら現地での粘り強い話し合いを続け、交渉を成功に導いた。

アグロ・アマゾニアは1983年設立。ブラジル最大の穀倉地帯であるマットグロッソ州全域に販売網を持つ農業生産資材問屋だ。

「農家の皆さんのあらゆる悩みを解決できる存在になりたい」と細田は言う。念頭にあるのはやはり、住友商事がもつ総合力だ。一方に多様で切実な農家のニーズがあり、もう一方に住友商事がもつ様々なビジネスラインがある。その両者をうまく結び付けることによって農業の生産性を上げ、安心できる作物を世界に供給できる仕組みを作ることが可能になる。そう細田は考えている。

「住友商事の社内にはいろいろな専門家がいます。最適な人にその都度相談しながら提供できる価値を最大化していくこと。それが事業投資をした会社の役割であると感じています」

アグリサイエンス部 投資・開発チーム 細田 薫

「この分野の経験のない私が大きな仕事を任せてもらえました。この部に配属になって本当によかったと感じています」と細田薫は言う。入社は09年だが、アグリサイエンス部所属となったのは1年半ほど前だ。「この会社で自分の人生を捧げてもいいと思える仕事に出会いたい」と目を輝かせる。

クロップサイエンス部 肥料事業会社支援チーム 菅野隆宏

菅野隆宏は90年入社のベテランだ。飼料添加物、農薬、肥料と、農業関連畑ひと筋に歩んできた。「現場では日々いろいろな問題が起こります。みんなで力を合わせてその問題を解決できたときに何より大きな達成感を感じます」

肥料ビジネスを起点とした新しいマルチサポートを

住友商事グループによるアグロ・アマゾニアへの出資比率は65%。その出資セクションに名を連ねているのがクロップサイエンス部である。農薬を手掛けてきたアグリサイエンス部に対し、肥料を主要な商材としてきた部署だ。

「農業生産マルチサポートの動きに関わることで、肥料ビジネスを起点とした新しいマルチサポートのイメージを得たいと考えました」

クロップサイエンス部の菅野隆宏はそう話す。クロップサイエンス部はこれまで日本、オーストラリア、中国、マレーシアの肥料関連の事業会社に出資し、現地での肥料生産と販売を展開してきた。とりわけ中国では青島(チンタオ)と佛山(フツザン)の2カ所に工場を設立し、ほぼ中国全域に高品質の肥料を供給している。

「中国では現在、肥料の過剰使用が問題となっています。肥料を使い過ぎると土壌が劣化し、地下水や河川の汚染にもつながります。私たちは収量を効率よく上げる高品質な肥料を提供するだけでなく、適切な施肥方法を農家の皆さんにお伝えすることで中国における農業の質の向上を目指しています」

そう説明するのは同じくクロップサイエンス部の木内隆文である。中国は農業従事者が3億人近くに上る世界最大の農業国だ。この国で築いた肥料ビジネスの基盤の上に、様々な事業を築き中国版の農業生産マルチサポートを実現していくこと。それが自分たちの長期的な目標であると菅野と木内は言う。すでに東欧と南米で先行してそのモデルを実現しているアグリサイエンス部と、中国に確固たる基盤をもつクロップサイエンス部がスクラムを組むことでそれは必ず実現できる。そう彼らは信じている。

中国では現地スタッフらとともに農業現場に頻繁に足を運び、生産者とフェイストゥフェイスのコミュニケーションを行っている。

スクラムの力で人類規模の課題に取り組んでいく

アグリサイエンス部の田中も細田も、クロップサイエンス部の菅野も木内も、農業現場における生産者とのコミュニケーションの重要性を一様に口にする。農家の要望や困り事に真摯に耳を傾け、全力でそれを解決し、その地域の農業の質を共に向上させていくこと。いわば、農家のためにやれることをすべてやること。そして、住友商事が出資する事業会社と生産者とが共にメリットを得ること──。それが農業生産マルチサポートの本質であり、自分たちが果たすべき「責任」なのだと。

しかしメリットを享受すべき人々は他にもいる。農作物のエンドユーザーである消費者だ。ルーマニア、ブラジルの農業生産マルチサポートの領域は、現在のところそれぞれの国内の農業現場に留まっている。その事業が住友商事がもつ世界的なロジスティックスや食料販売のネットワークと結び付き、日常の食卓へと至る一連の流れが生まれたとき、住友商事の食料・農業ビジネスは、生産地と消費者とを結ぶ完結したバリューチェーンとなる。オーストラリアにおける穀物の集荷・輸出事業、ベトナムにおける製粉事業、フィリピンのバナナを日本に運ぶ低温輸送システムなど、住友商事が世界で展開している個々の農業・食料ビジネスも、いずれそのバリューチェーンの一部となっていくだろう。

現在の世界の人口はおよそ73億人。この数は50年には100億に近づくと予想されている。増え続ける人口を支えるための食料確保は、今後いよいよ全人類規模の課題となっていく。安全な食料を十分に、かつ継続的に生産していくために総合商社にできることは何か──。住友商事は事業分野を超えたスクラムの力で、その答えを示そうとしている。

(敬称略/2015年10月掲載)

クロップサイエンス部 平度(ピンドゥ)駐在 木内隆文

学生時代からラグビーを続けている木内隆文。「スクラム」の意味を誰よりも知っている社員と言っていいだろう。「08年の入社以来、ずっと肥料ビジネスに携わってきました。仲間からボールを受け取って自分の力でビジネスを前に進めることができた。そんな実感を得られたときが一番うれしいですね」

私たちが考える「住商スクラム」

様々な領域で発揮されている住友商事の総合力。それが「住商スクラム」だ。

アグリサイエンス部 投資・開発チーム長 田中 卓

「信用を何よりも重んじること。それが住友商事の社員に共通するマインドです。同じマインドを共有しているからこそ部署を越えた連携ができるのです」
──アグリサイエンス部 投資・開発チーム長 田中 卓

「組織間の壁、社員間の壁が極めて低いのが住友商事の特徴です。相談すれば快く応じてくれる人たちが、この会社にはたくさんいます」
──アグリサイエンス部 投資・開発チーム 細田 薫

アグリサイエンス部 投資・開発チーム 細田 薫
クロップサイエンス部 肥料事業会社支援チーム 菅野隆宏

「所属する組織にとらわれない社員同士の仲のよさ。その人間的つながりが住友商事の総合力の基盤になっていると感じています」
──クロップサイエンス部 肥料事業会社支援チーム 菅野隆宏

「世界各地の現場に深く根を下ろしている社員が現地でいろいろな組織をまとめ上げる役割を担っている。それこそが住友商事のスクラムの強さです」
──クロップサイエンス部 平度(ピンドゥ)駐在 木内隆文

クロップサイエンス部 平度(ピンドゥ)駐在 木内隆文
小宮悦子の視点

小宮悦子の視点

私たちが毎日口にしているおいしい食事。そのもととなる食材はすべて、どこかで誰かが作ってくれているものであることを私たちは忘れがちです。安全で質の高い食材を得るためには、その作り手である農家の皆さんへのサポートが非常に重要であることを住友商事の取り組みは教えてくれます。ルーマニア、ブラジル、中国と、活動する場所は違っても自分たちの力で安全な作物を食卓に届けたいという気持ちは共通のものであること、そしてそれが住商スクラムの力強さとなっていることがよく分かりました。

世界を変えるスクラム


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ひとが、未来をつないでく。住友商事