VOL.08 Aircraft Leasing 「持たざる経営」を支える事業力と資金力

グローバル化の時代とは、人、モノ、金が国境を越えてスピーディに絶え間なく移動していく時代である。その移動を支える重要なインフラの一つが航空機だ。航空機を利用する人の数は世界中で年々増え続け、航空会社間の競争も激しくなっている。日々拡大し、変化する航空機市場。その陰で力を発揮しているのが、航空機リースというサービスである。住友商事は1990年代の半ばから、そのサービスをスタートさせた。総合商社である住友商事が航空機リースを手がける意味とは──。

モノとファイナンスの力を融合させたサービス

86年の入社以来、航空宇宙分野ひと筋に歩んできた石田英二。防衛省向けの航空機事業に携わった後、10年から民間航空機分野に配属となった。石田は「ビジネスには感受性が求められる」と語る。「重要なことを判断する場面で役に立つのはインスピレーションです。インスピレーションを磨くには、日々自分が感じたこと、思ったことを深く省察することが必要である。そう考えています」

モノとファイナンスの力を融合させたサービス

96年、住友商事は米ボーイング社から旅客機「767」を購入し、英国のブリタニア航空に期限付きで貸し出した。これが、住友商事の航空機リース事業のスタートである。01年には、オランダに航空機リースの専門事業会社「住商エアクラフト・アセット・マネージメント」を設立。最大時で90機の飛行機を所有・管理することになった。

現在、住商エアクラフト・アセット・マネージメントは「SMBCアビエーション・キャピタル」という関連会社に統合されている。同社が保有・管理する航空機は400機に上る。これは、世界の航空機リースを手がける会社の中で3位となる機体数である。

社名に「SMBC」を冠しているところからも分かるように、同社は三井住友フィナンシャルグループと住友商事の合弁によって設立した企業だ。総合商社である住友商事と金融機関である三井住友銀行グループの連携──。そこに航空機リースのビジネスモデルの本質があると、航空宇宙事業部長の石田英二は説明する。

「航空機リースとは、商社である私たちが航空機を購入し、それを世界中の航空会社に貸し出すことで利益を上げていくビジネスです。航空機の価格は非常に高いので、このビジネスを拡大していくには資金力が必要になります。そこに、金融グループとこの事業をともに進める意味があります。もちろん、多くの旅客を乗せて空を飛ぶ機体を扱うわけですから、それを安全かつ適切に維持し、管理する力を私たちが備えていることが、このビジネスの前提となります」

航空機というモノを扱う力とファイナンスの力。その二つがダイナミックに結びつくことによって成立しているのが航空機リース事業というわけだ。

社会や市場の変化に迅速に対応するために

88年入社の石丸正吾もまた、一貫して航空宇宙分野で仕事をしてきた。民間航空機の販売などを経て、09年に住商エアクラフト・アセット・マネージメントの社長に就任。企業統合にともなって役割を終えた同社の看板を携えて一昨年(12年)帰国した。「多くのスタッフたちが寄せ書きを書いてくれた、その看板が何よりの宝物」と頬を緩める。

社会や市場の変化に迅速に対応するために

現在、世界中の航空会社の多くが航空機リースを利用している。リース機体の割合は現状で約4割。その割合は年々増加傾向にあり、将来的には5割に達する見込みだという。

リースが増えている背景には、90年代から続く航空業界の市場の変化がある。新興国を中心に航空機の利用者が右肩上がりで増え続け、一方では、格安航空会社などが登場して市場は多様化してきた。また、乗客に支持される航空機のトレンドも短期間で変化している。

「市場が激しく変化する中で、航空会社が自ら飛行機を所有することのリスクは年々高まっています。膨大な資金を投じて機体を購入しても、それを長く使い続けられるかどうか分からないからです。適正なサイズの機体を適正な路線に投入したとしても、路線の利用客数や乗客のニーズは日々変化しているので、その機体が早晩、“適正”でなくなる可能性がある。それが現在の航空機市場です」(石田)

そこに航空機リースの役割が生じる。このサービスを活用すれば機体導入時のイニシャルコストを大幅に削減できるだけでなく、3年から5年という期間で機体を入れ替えることができるので、市場の変化への対応も早くなる。つまり、航空機を購入して保有する事業モデルと比べて、はるかに迅速でリスクの低い経営が可能になるというわけだ。

グローバル時代にあっては、激しい市場の変化に対応できる柔軟な経営があらゆる業界に求められる。それを可能にするのが、いわゆる「持たざる経営」だ。モノや人といった経営資産を社内に抱え込まず、アウトソーシングなどのサービスをできる限り活用して、社会や市場の変化に迅速に対応していく。それが、持たざる経営の根幹を成す考え方である。航空機リースとは、航空会社にとって最も重要な経営資産の一つである航空機を外部から提供することによって、航空会社の持たざる経営をサポートするサービスということができる。

グローバル時代のインフラを支えるビジネス

グローバル時代のインフラを支えるビジネス

「リースを活用すれば、航空会社はより多くの機体を路線に投入することができます。それによって人々の移動はさらに活発になり、世界の国々はより近くなっていくでしょう。そう考えれば、航空機リースとはまさしくグローバル時代のインフラを支えるビジネスであるといえるのではないでしょうか」

航空宇宙事業部副部長の石丸正吾はそう話す。そのビジネスを可能としているモノとファイナンスを組み合わせるモデルは、今後さまざまな形で応用が可能であると石丸は言う。

「住友商事の中には、プロダクトに関わる事業を手がけている部門がたくさんあり、プロダクトを管理・運営するノウハウの蓄積があります。そのプロダクトとファイナンスを結びつけ、リースとしてご提供していく。航空機リース事業はそのようなモデルの手本になると自負しています」

異なる事業分野への横展開がこのモデルの発展の可能性の一つだとすれば、もう一つの可能性は、航空事業に関わるリースの範囲を広げ、総合的なパッケージとして提供していく方向に開けている。部長の石田は今後の事業ビジョンを次のように語る。

「機体だけではなく、パイロット、キャビンアテンダントなどのスタッフ、あるいは機体整備などの作業をトータルにご提供できれば、航空会社は運行のオペレーションやお客様へのサービスにリソースを集中させることができます。それによってサービスレベルが上がり、航空機を利用する人はさらに増えていくでしょう」

新しいものを創造していくそれが総合商社の役割

小森茂が別の商社から住友商事に移ったのは03年のこと。前職の時代から航空機ビジネスに携わり、前職と住友商事の通算で7年間の海外駐在も経験した。「案件に着手すべきかどうかを徹底的に吟味し、一度やると決めたら最後までやり遂げる。それが住友商事のカルチャーであると感じています」

新しいものを創造していくそれが総合商社の役割

「商社の役割とは、常にビジネスに対して“ハンズオン”であることと私は考えています」

03年から住友商事の航空機リース事業に携わり、現在は航空機リース事業チーム長を務める小森茂はそう話す。ハンズオンとはモノやサービスを自分たちの手で動かし、自分たちの手で顧客に提供していくことを意味する。小森らが関わる事業におけるモノとは、言うまでもなく航空機である。メーカーでも航空会社でもない以上、商社は自分たちで機体を生産したり運航したりすることはできない。しかし、自分たちでマネージメントする機体には、おのずと深い愛着が生じる。航空機というモノに対する深い理解と愛情。それこそが航空機リースという事業を支えていると小森は言う。

航空宇宙事業部の部長である石田も、副部長である石丸も、現場の責任者である小森も、これまで一貫して航空機畑でキャリアを重ねてきた。彼らが共有しているのは、何よりも航空機に対するその愛情だ。3人は口々に、自分たちの言葉で航空機への愛情を表現してみせる。

「飛行機は本当にセクシーでかっこいい。そう思います」(石田)

「飛行機は何時間見ていても飽きることがありません」(石丸)

「自分たちが持つ飛行機が空を飛ぶところを見るのは、大きな喜びです」(小森)

かつて、総合商社は「仲介業」と呼ばれた。しかし、時代が変わる中で、総合商社の役割はさまざまに変化し、拡大していった。資金力をベースに、航空機を長期間保有し、貸し出すことで利益を上げる。比較的新しいその航空機リースのモデルもまた、今後、時代とともに変化していくだろう。石田は言う。

「新しいことにチャレンジしたい──。私たちは常にそう考えています。新しいこととは、突拍子もないことではありません。すでにあるものを組み合わせたり、ちょっとした工夫を施したりすることで、これまでになかったものが生まれるのです。そうやって新しい事業、新しいモデル、新しいサービスを絶えず創造していくこと。それこそがこれからの総合商社に求められる役割なのではないでしょうか」

(敬称略)

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