VOL.07 Geothermal Power generation 新たな電力インフラで国の発展を支える

電力は国の発展を支える最も重要なインフラの一つである。しかし、急速な成長の過程にある新興国では、電力インフラの整備が国の発展のスピードに追いつかない場合もある。近年、安定的な経済成長を維持し、人口増加も続いているインドネシアがまさにそのケースだ。増大する電力需要の伸びにいかに対応するか──。その問題の解決策の一つとして期待されているのが、環境負荷の低い地熱発電の活用である。インドネシア国内で開発が次々に進む地熱発電。住友商事の力がそこで存分に発揮されている。

再生可能エネルギーを経済成長の基盤に

01年から電力ビジネスに携わるようになった山田尚登。86年の入社後、産業機械の担当部署に配属になり、ハノイなどでの駐在も経験した。「規模が大きく、責任ある仕事に関われることが電力ビジネスの面白さ」と語る。「住友商事という仕事の舞台、そして家族、自分が今置かれているそうした環境のすべてが私の宝物です」

再生可能エネルギーを経済成長の基盤に

2004年に建国後初となる民主的直接選挙で選出されたユドヨノ大統領は、11年に「経済開発加速・拡大マスタープラン」と題する方針を発表し、25年までにインドネシアを世界の10大経済大国にランクインさせるという目標を掲げた。これが必ずしも無謀な目標といえないのは次のような理由による。

民主主義体制が確立し政治的安定が実現していること、およそ2億4000万人という世界第4位の人口を抱えていること、富を生み出す生産年齢人口の割合が今後増えていくこと、国内に豊富な資源を抱えていること──。

事実、インドネシアは中国、インドに次ぐアジア第3の新興経済大国としての地位をすでに確立しており、BRICsにインドネシアの頭文字である「もう一つの“I”」を加えるべきであるという意見も数年前から出ている。

しかし、その経済成長を実現するには、増加する電力需要を支えるインフラの開発が欠かせない。インドネシア政府が現在進めているのは、再生可能エネルギーの開発によって、電力の「ベストミックス」を実現することだ。電力のベストミックスとは、その国が置かれている状況に応じてさまざまな発電方法を適宜組み合わせ、最も効率のよい電力インフラをつくり上げることを意味する。インドネシア政府が目指しているのは、再生可能エネルギーによる電力を全体の17%まで高めることだ。そのうちの5%分を地熱発電によってまかなうとしている。

豊富な地熱資源をいかに活用するか

豊富な地熱資源をいかに活用するか

インドネシア政府が地熱発電開発に力を入れているのは、この国が米国に次ぐ世界第2位の地熱資源大国だからである。では、地熱資源とは何か。

地熱発電の仕組みは比較的シンプルである。地下深部にあるマグマによって熱せられた地下熱水をくみ上げ、その蒸気によってタービンを回し、発電する──。構造のみを簡略化して説明すれば、それがすべてだ。そこで使われる地下熱水がすなわち地熱資源であり、その資源を最も豊富に持つ国の一つがインドネシアというわけである。

その地熱発電の開発に深く携わっているのが住友商事の電力地熱チームだ。チームを束ねる山田尚登は説明する。

「現在、インドネシアにおける地熱発電の発電設備容量はおよそ1500メガワットですが、ポテンシャルはその数十倍に上ると見られています。国の発展を支える安定的な電力インフラを構築するのに、地下に豊富に眠る地熱資源を利用しない手はありません。そのお手伝いをするのが、私たちの仕事です」

地熱発電には数多くのメリットがある。まず、くみ上げた熱水の大部分は再び地下に戻されるので、資源が枯渇する心配が少ない。CO2の排出量はほかの再生可能エネルギー同様、非常に少ない。一方で、太陽光や風力発電などと違って、天候による出力の変動がない。24時間、365日、気象条件に左右されずに発電を行うことができる。結果、発電設備の利用率も高くなる。この安定性故に、地熱発電はベースロード(全電力中の基幹的な電力源)になり得る唯一の再生可能エネルギーといわれる。

「もう一点重要なことは、ガス、石油や石炭など他国から資源を輸入する必要がなく、純国産の資源によって国内の電力をまかなえる点にあります。いわば、電力の地産地消を可能にするエネルギー、それが地熱というわけです」(山田)

インドネシアの地熱発電の半分近くを手がける

地熱案件全般を担当する押切司。グループ会社の住商機電貿易からの出向で、現在は住友商事の電力地熱チームに配属となっている。「日々の小さな課題を一つ一つ解決していくたびに達成感を得ています。仕事のパートナーから感謝の言葉をいただくと、この部署で仕事ができてよかったと感じますね」

インドネシアの地熱発電の半分近くを手がける

世界の地熱発電のマーケットをリードしているのが日本企業であることは、あまり知られていない。地熱発電用タービンのシェアの、実に8割は日本のメーカーによって占められている。住友商事はそのメーカーの一つ、富士電機とのパートナーシップのもとで、これまでインドネシアのいくつかの地熱発電開発に携わってきた。

住友商事がインドネシアにおいて地熱に限らず電力関連ビジネスを始めたのは、70年代からである。

「電線などの部品供給からスタートし、徐々に発電機器の輸出なども手がけるようになりました。現在、インドネシアは住友商事の電力地熱チームの最注力マーケットとなっており、地熱をはじめ、ガス、石炭火力、水力といった電力設備の開発に携わっています」(山田)

住友商事がインドネシアで手がけた直近の地熱発電所案件が、スマトラ島のウルベル地熱発電所である。10年2月にプロジェクトをスタートさせ、1号機を12年9月に、2号機を同じく10月に完成させた。

このプロジェクトをはじめ、住友商事は地熱発電所に関しては「EPC」と呼ばれるモデルに強みを持つ。EPCとは、設計(Engineering)、調達(Procurement)、建設(Construction)の頭文字をとったもので、エンジニアリング・基礎工事から試運転・完工までの一式を担うのがEPC事業者の役割である。

「発注主である電力公社と細かなやり取りをし、パートナーである富士電機と現地のエンジニアリング企業とともにプロジェクトを遅滞なく進めていく。ウルベル発電所建設において、そのマネージメント役を担ったのが住友商事でした」

そう説明するのは、地熱案件全般を担当する押切司だ。

構造自体はシンプル──。先に地熱発電についてそう説明したが、実は地下熱水の温度やそこに含まれる成分は場所によって異なるため、タービンやプラントの設計は、発電所によって細かに変えていかなければならない。自然の条件に合わせて、可能な限り高い発電効率を実現する。その点において、日本企業の技術は世界トップといっていい。住友商事は現在インドネシアで稼働している地熱発電のおよそ半分にEPC事業者として関わってきたが、それが可能だったのもパートナーであるメーカーの高い技術力と、2年から3年に及ぶプロジェクトをまとめ上げる商社としての底力があったからだ。

さまざまな力をまとめ上げマネージメントする

さまざまな力をまとめ上げマネージメントする

地熱発電所が建設されるのは多くの場合、山岳地帯であり人里離れたへき地である。ウルベル発電所の建設現場で奮闘した当時のプロジェクトメンバーである佐藤勇貴は、現地での苦労をこう振り返る。

「発電所がつくられたのは、一番近い村まで車で1時間もかかるところでした。私たちはその村に住み、未舗装の山道を建設現場まで毎日通うという生活を2年半の間続けました。かなりの山奥だったので、現場で働いてくれる人を見つけるのが大変だったこと、トラの生息地に近く常に身の危険を感じていたこと、現場の地中から大きな岩が出てきてダイナマイトで爆破しなければならなかったことなどをよく覚えています」

同じくプロジェクトのメンバーだった江波戸祥ニは、「現場近辺で調達できる食材が限られていて、10日に1回程度、片道2時間かけて買い出しに出かけていました。コックを見つけるのにも苦労しましたね」と話す。

今後、インドネシアでの地熱発電開発が加速していくことは間違いない。そこで住友商事はこれまでの苦労を糧としながら、ますます大きな役割を果たしていくことになるだろう。インドネシアでの電力ビジネスに長年関わってきた経験と、米国、エルサルバドル、アイスランド、フィリピン、ニュージーランドなどで手がけてきた地熱発電開発の経験。その両方を生かしていきたいと山田は言う。

「これから大きく発展していく国を電力インフラによって支えていくお手伝いができること。それがこの仕事の一番の醍醐味です」(山田)

一方、「発電所の開発はいろいろな力が組み合わさらないと実現できない」と話すのは押切だ。

「電力地熱チームだけではなく、社内の経理、法務、財務、現地スタッフ、メーカー、現地のパートナー企業、クライアント。そのすべての力をまとめ上げ、マネージメントする。それが私たちの役割であると考えています」

飛躍の過程にあるインドネシアで開発が進む、地熱発電という新しい電力インフラ──。そこに大きく開けている未来はまた、住友商事電力地熱チームの未来でもある。

(敬称略)

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