VOL.05 Commercial Facility 地元の人々に愛される施設をつくり、育てる

間近に相模湾を望む風光明媚(めいび)な土地、湘南。ここに、延床面積にして東京ドーム3.6個分に及ぶ広大なショッピングセンターがオープンしたのは、2011年11月のことだった。この巨大商業施設の開発を担ったのが住友商事である。

住友商事が商業施設のディベロップメント事業を始めたのは、30年以上前のことだ。土地を取得し、そこに商業施設を建設する。あるいは、すでにある建物に改良を施し、新たな商業施設としてよみがえらせる──。そのようにして開発したショッピングセンターや駅ビルは、全国で15施設に上る。

住友商事が目指しているのは、地域に根ざした施設をつくり、それを地域の人々にとってかけがえのない場所にしていくことである。それは、極めて息が長く、根気が求められる事業だ。住友商事の社風としてしばしば言及される「粘り強さ」が、その事業の中で最大限に発揮されている。

施設の完成はゴールではなく、スタート

94年の入社以来、不動産畑で働き続けてきた羽鳥貴弘。これまで、上司や先輩に数え切れないほどの叱咤激励を受けてきた。それが自分に成長を促したと話す。「叱ってくれる人が身近にいるのはありがたいことです。本気で叱ってくれた人との間には、本当の意味での信頼関係が生まれる。そう感じています」

施設の完成はゴールではなく、スタート

ディベロッパーが手がける事業には、一般に、どこかに「ゴール」が設定されている。分譲マンション事業であれば、建物が完成し、販売が完了したところが一つのゴールとなり、オフィスビル事業であれば、借り主が決まったところがそれだ。その後、施設のオーナーとしてメンテナンスや改修に携わらなければならないとしても、多くの場合、それらのゴールをもって開発プロジェクトはひとまず終了したと見なされる。

一方、商業施設開発には、そういった意味でのゴールはない。商業施設の主な収入源は、テナントからの賃料である。同じ賃料モデルのオフィスビルとの違いは、テナントの売り上げと賃料が連動している点だ。テナントの売り上げが伸びなければ賃料も伸びない。従って、オーナーはテナントとともに、施設を顧客に支持される場所にするための工夫や改善に継続的に取り組んでいかなければならない。

「商業施設をつくり、オープンさせた時点で私たちの仕事が終わるわけではありません。そこはゴールではなく、むしろスタートなのです」

住友商事商業施設事業部の羽鳥貴弘はそう話す。自ら生み出した施設を、その後も大切に育てていく。その意味では、商業施設事業とは子育てのようなものなのだと。

もちろん、その「スタート地点」に立つまでの苦労も並大抵のものではない。地元住民、自治会、商店会、行政などと話し合いを重ね、ときに互いの意見をぶつけ合いながらも理解を深め合い、施設を完成まで導いていかなければならない。

「長年商業施設開発に関わってきて、本当に地道な仕事だと実感しています」そう羽鳥は語る。

グループ会社とともに施設を育てていく

部長として商業施設開発チーム全体を統率する高野稔彦。81年の入社後、人事部での10年弱の経験を経て、施設開発部門に異動となった。「伝統ある企業の文化には、変えるべきところと変えてはいけないところがあります。何を受け継いでいくべきか、何を自分たちの力で変えるべきか。それを見極める目を、若い人たちには持ってほしいと思います」

グループ会社とともに施設を育てていく

住友商事が開発した施設の管理・運営を担うのは、グループ会社の住商アーバン開発だ。施設の開発者であり所有者が住友商事で、施設運営の主体は住商アーバン開発。役割分担を端的に示せばそういうことになるが、完成した「箱」をグループ会社に受け渡し、それ以降のすべての業務を委ねるというのは、住友商事のスタイルではない。

「開発の段階からオープン後の運営の方向性を考え、完成後は、施設の価値をより高めていくためにともに努力していく。それが私たちと住商アーバン開発の関係です。事実上、一つのチームと言っていいでしょう」(羽鳥)

現在、住友商事が開発した商業施設の多くは、そのようなチーム体制で運営が進められている。11年11月にオープンした「テラスモール湘南」も、そういった施設の一つだ。総店舗面積およそ6万3000平方メートル。その巨大な店舗の中に、281のテナントが軒を構える。開店のニュースは数々のメディアで報じられ、大きな話題を集めた。

「私たちが手がけてきた商業施設の集大成が、このテラスモール湘南であると考えています」そう話すのは、これまで数多くの施設開発に携わってきた商業施設事業部長の高野稔彦だ。

「青い空が広がり、間近に美しい海を望み、すがすがしい風が吹く。湘南とはそういう場所です。そこでしか成立しないような商業施設をつくることが私たちの目標でした」

住友商事のDNAが完成させたショッピングセンター

朝日直樹の入社は06年。テラスモール湘南が完成してから、同施設の担当となった。「いつか、ゼロから開発に携わるダイナミックな仕事がしてみたいですね」仲間を助けられる人、仲間から助けてもらえる人。仕事では常にそんな人でありたいと話す。

住友商事のDNAが完成させたショッピングセンター

オープンまでは苦労の連続だった。もともとは工場跡地だった広大な敷地を開発する話が持ち上がったのは、今から30年あまり前のことだ。ようやく開発のめどが立ったのが10年ほど前。計画が具体化していき、08年に工事をスタートさせ、10年3月にオープンする予定だった。それが1年半以上も延びたのは、資機材の高騰、リーマンショック、東日本大震災という困難に次々に見舞われたからである。

「実際に開発が止まった時期もありました。そこを乗り越えて何とか完成にこぎ着けたのは、住友商事のDNAの力があったから、私はそう考えています」(高野)

住友商事の前身である大阪北港株式会社が設立されたのは1919年のことである。大阪北港は、大阪の港湾エリアの開発などを手がける不動産会社だった。それ以来100年近くの間、不動産事業は住友商事の中核部門の一つであり続けている。

その歴史の中で培われてきた開発プロジェクトを完遂する力。あるいは地元に根ざし、地域の人々とともに発展していこうとする意志。高野が「住友商事のDNA」と言っているのはそのことだ。総合商社ならではの資材調達力、プロジェクトマネジメント力がそのような「DNA」と結びつくことで、この巨大なショッピングセンターは誕生した。

難産の末に生み出すことができた施設。だからこそ、愛着は深い。現在、テラスモール湘南の担当者の一人である朝日直樹は話す。

「パートナーである住商アーバン開発、および、281のテナント様とともにこの施設を大きく育てていくことが私たちの仕事です。テラスモール湘南がお客様に愛される施設になるためには、一つ一つのテナント様がお客様に愛される店でなければなりません。一店一店の成長を施設全体の成長に結びつけていくこと。そこにこれからの私たちのチャレンジがあります」

ハードルを粘り強く乗り越えていく(撮影:三輪晃久写真研究所)

ハードルを粘り強く乗り越えていく

テラスモール湘南のオープン後、住友商事の商業施設事業は新しい段階に進んだ。そう高野は言う。

「テラスモール湘南には、国内外からの見学者が絶えず訪れています。ほかの地域の土地のオーナー様からの引き合いも増え、テナント様からの問い合わせも目に見えて増加しました。これから新たに商業施設を展開していくに当たって、テラスモール湘南の成功が大きなステップボードになったのは間違いありません」

新たな土地や物件を見つけ、商業施設の新規開拓を進めていくこと。そして、現在所有している施設のクオリティをより向上させていくこと。商業施設事業部は、その二つをこれからのビジョンとして掲げている。しかし、あくまで地元に密着し、地元の人々とともに施設を育てていくという姿勢は、これからも変わることはない。

「どの地域で開発を行うにしても、すべてがうまくいくことはありえません。綿密なプランを立て、それを地元の方々に一から説明し、問題点を一つ一つ解決していく。そうやって長い時間をかけて愛される施設をつくっていくことが、この仕事の一番の醍醐味であると感じています」そう羽鳥は言う。

多くの客でにぎわう華やかな商業施設は、そのような人知れぬ努力によってつくられ、運営されている。「住友商事のDNA」は、これからも長く引き継がれていくだろう。

(敬称略)

関連リンク

第1回 Fact 農薬
第3回 Fact 医療
第4回 Fact 太陽光/風力発電
第5回 Fact 商業施設
第6回 Fact 自動車
第7回 Fact 地熱発電
第8回 Fact 航空機リース