ニュースリリース(住友商事)
2010年01月04日
取締役社長 加藤 進
2010年 年頭挨拶

皆さん、明けましておめでとうございます。
東京本社から、全世界の住友商事グループの皆さんへ、新年の挨拶を申し上げます。
◎ 取り巻く諸環境
さて、昨年もまた激動の1年でした。世界的な金融危機は、想像を超えるスピードと規模で実体経済に波及し、世界同時不況の様相を呈しました。その後、G20を軸に各国が協調して政策を総動員した結果、世界経済は最悪期を脱し、中国などアジア経済が先導する形で回復局面に入っています。ただ、需要創出の政策依存度が高いことに加え、先進国の雇用環境が悪化していること、さらに金融危機の後遺症として、財政赤字や一部新興国の債務返済能力の懸念が残っていることから、今後の成長ペースは緩やかにならざるを得ないととらえています。
また、昨年は、政治の面でも大きな変化があり、米国ではオバマ政権が発足し、わが国においては、民主党・鳩山政権がスタートしました。チェンジ、変革を期待する国民からの支持を受けて誕生した両政権ですが、両国、世界が直面するさまざまな課題の解決に向けて、しっかりとした取り組みを行うことを期待しています。
住友商事総合研究所は、今年を「自律回復へのバトンタッチが試される年」と位置付けています。中国を中心とした新興国経済に加え、自動車購入支援策など政策によって創出された需要によって支えられている現在の状況から、民需主導の自律的な回復に移行できるかどうかが試される年ということです。バトンタッチの過程では、成長ペースが一時的に減速する場面も想定されますが、新興国経済の底堅さを考えれば、私は、世界経済全体が2番底に陥るリスクは限定的と見込んでいます。
◎ 中期経営計画 FOCUS'10と次の100年に向けて
中期経営計画 FOCUS'10について
以上がマクロの環境認識ですが、ここで当社の現在の立ち位置を確認したいと思います。
先ず、FOCUS'10初年度である本年度の実績については、上半期までの連結純利益が621億円となっています。先ほど述べました通り、取り巻く諸環境の先行きにはまだまだ不透明感があり、油断はできないものの、通年の利益計画に対して54%の進捗率となっており、目標達成に向けて意を強くしています。残り3ヵ月、取りこぼしのないよう、気を引き締めて頑張っていきましょう。
私たちは、FOCUS'10のテーマを「新たなステージにおける成長シナリオ」として、次の10年を見据えた「変化を成長につなげる価値創造企業」を目指しています。今回の経済危機もいずれ回復し、出口が見えてくるでしょうが、経済危機をきっかけに、さまざまな分野で大きな構造的な変化が起こっていることを考えると、トンネルの向こう側には、危機以前の状態ではなく、これまでと全く違う景色が広がっているのではないかと思います。経済危機は「100年に1度」と言われましたが、これから先の道行きも、われわれ全員にとって未体験の世界と覚悟しなければなりません。このことは、ビジネスの最前線にいる皆さんが、日々の仕事の中で最も敏感に感じているのではないでしょうか。
こうしたパラダイムシフトの真ん中で、われわれは正念場を迎えています。激しい変化ですが、翻弄されてはなりません。一歩先んじて自らが変革を起こして新たな価値を生み出していくこと、さらに社会とのかかわり合いの中で事業をとらえ、より大きな価値創造につなげていくことが大切です。健全性・効率性の強化も、ビジネスの中身を総点検することを通じて、成長機会に積極的に経営資源を投下し、持続的な成長を実現するために実行するものです。FOCUS'10では「新たな価値創造」を目指していること、そして、こうした価値創造のサイクルを実行することが、経営理念の実践そのものであるということ、この点を全員で再確認したいと思います。
ここで、パラダイムシフトの中身をもう少し具体的に見てみましょう。私は、今世界で起こっているパラダイムシフトの中で、注目すべきは「地軸の変化」と「産業構造の変化」の2つの変化であるととらえています。
「地軸の変化」とは、新興国の存在感の高まりのことです。経済や政治の世界秩序の中では、G8からG20へのシフトが起きています。すなわち、恵まれた資源・人口・国土を持つ新興国が急速に台頭し、そのプレゼンスが非常に大きくなっています。これまで私たちは、先進国に相対的に多くの経営資源を投入してきましたが、こうした新興国の成長をいかに取り込むことができるかが、今後の大きな経営課題の1つであると考えています。各事業部門では、このような新興国の成長を生かせる機会がないか、より具体的な検討を行ってください。また、各地域組織には各市場の動向を踏まえた戦略・戦術を、積極的かつ具体的に提言することを期待しています。地軸変化を踏まえて、われわれの進めるグローバル連結経営をさらに深化させていくことが必要です。この実現のために、事業部門と地域組織との間、また地域組織間で、これまで以上の積極的なコミュニケーションを進めていってください。
もう1つのパラダイムシフトは「産業構造の変化」です。
例えば自動車業界では、地球温暖化対策という観点で、電気自動車への期待が高まっていますが、この分野では多数の小規模メーカーが台頭し、いわゆる「ビッグスリーからスモール・ハンドレッド」へのシフトが起きています。こうした構造変化はさまざまな分野で起こりつつあり、21世紀の産業革命とも言われています。環境という切り口では、温暖化ガスの排出削減や、風力・太陽光などの新エネルギー関連事業で、新たなビジネスモデルが成立しつつあります。さらに、食料や農業の分野では、新興国の経済発展に伴う食料需給の逼迫が、中長期的には地球規模の大きなテーマとなると見込まれています。このような構造変化は、社会に新たな課題を突きつけることになりますが、こうした課題にソリューションを与えることができれば、大きな付加価値を生み出すことになり、これまでにない新たな、スケールの大きいビジネスを生みだすことが可能になります。
今年は、そのために必要な手当てを本格的に行っていきます。環境は、いまやすべての産業分野を貫くテーマであり、従来の産業・分野別の縦割り組織だけでは対応し切れない面もあることから、今年の4月には「新産業・機能推進事業部門」を新たに立ち上げ、将来の収益の柱を構築する役割を担ってもらいます。この新部門では、新たな成長分野として期待される「環境・新エネルギー分野」において、事業化のスピードを加速させ、事業領域の拡大を図っていきます。同時に、FT(ファイナンシャル・テクノロジー)、LT(ロジスティクス・テクノロジー)を駆使して新事業の開発に当たるとともに、自らの機能を提供することを通じて、全社の価値創造活動を推進・支援してもらうという狙いで、金融事業本部と物流保険事業本部も、この新部門に置きます。
これまでの複数の組織にまたがるビジネスを集約した上で、それぞれの分野での経験や知見、取引先との関係などを融合し、横串機能の発揮を通じて総合力を最大限発揮することを期待しています。
こうした「地軸の変化」と「産業構造の変化」は、新部門に限らずすべての事業部門、地域組織のビジネス領域で起こっています。構造変化をビジネスチャンスととらえ、ポテンシャルの高い分野・地域には積極的に経営資源を投入していきたいと考えています。
次の100年に向けて
次に歴史という時間軸の中で、現状をとらえてみたいと思います。
当社は第一次大戦後の1919年に大阪北港株式会社として設立され、昨年には90周年を迎えました。FOCUS'10で見据えた10年後、2019年には、設立100周年を迎えます。企業が100年存続するということは、決して当たり前のことではありません。これは諸先輩方が培ってこられた信用の重みと、不断の革新の努力のおかげであり、心からの感謝と深い尊敬の念を持っています。歴史は信用に裏打ちされて初めて積み重ねることができるものですが、他方で、歴史とともに環境は変化していますから、企業が自己革新を怠れば歴史から退場を迫られることも忘れてはなりません。
400年の歴史を刻んだ住友の信用と革新の精神を次世代に引き継ぐのが私たちの責務です。私も、先人に習い、真摯な気持ちとひたむきさをもって、信用という基盤を守りつつ、自らを変革し続けることによって、新たな価値を生み出していきたいと、決意を新たにしています。そして、そうした事業活動を通じて、当社が100年、その先の100年と、社会から存在意義を認められる会社として存続していくことが、私の夢であります。
私は、90周年から100周年にかけての10年は、次の100年という新たなステージに向かうための基盤づくりの時期と位置付けています。そして、2010年は「パラダイムシフトに対応し、次の100年の基盤をつくる転換点」になるととらえています。従来の成功モデルが通用しなくなる中、未知の分野にチャレンジすることもあるでしょうし、過去から決別する判断を下す局面もあるかもしれません。決して楽なことではありませんが、現状に甘んじることなく、先憂後楽、打つべき手を先に打ち、後は楽しみを待つ、私を含め、役職員一人一人がそのような心の持ち方をしたいと思います。後から振り返った時に、2010年は大きな転換点であった、と達成感を持って皆で振り返ることができるような年にしましょう。
◎ 役職員へのメッセージ
ここで、2010年を迎えるに当たり、役職員の皆さんに心がけて欲しいこととして、基本的なことではありますが3点お伝えします。
リスクを恐れない
1つ目は「リスクを恐れない」ということです。
何事においても、新たなことに取り組む際には、リスクを恐れない勇気が必要です。リスクに対しては、綿密な分析が必要なのは言うまでもありませんが、脅威でなくチャンスととらえるマインドセットが大切です。このような変化の激しい時代には、リスクをとらないことがリスクだという言い方もできます。事に際し、問題点の指摘をして、できない理由を並べてばかりいるのではなく、必ずやりぬくという強い意思を持ち、どうすればできるのかを考え、行動していきましょう。
謙虚に学ぶ姿勢を忘れずに
2点目は「謙虚に学ぶ姿勢」です。
発明王エジソンが、「われわれは何事についても1パーセントの100万分の1も知らない」という言葉を残しています。たとえ、自分が得意な領域でも、知らないことは必ずあるもので、「単に分かっていると思い込んでいるだけではないか。」「まだまだ、学ぶことがたくさんある。」このような謙虚な姿勢を大切にしましょう。
自信を持つことと、過信や慢心は全く別のものです。自らを客観視するとともに、誰からも、どこからでも学ぶという謙虚な姿勢を忘れないでください。
私自身が、常に相手に対する尊敬の念を持ち、他人の意見に真摯に耳を傾ける、「謙虚に学ぶ姿勢」を一層大切にしたいと考えています。皆さんも努力してみてください。
熱い想いを持つ
そして、最後は「熱い想いを持つ」ということです。
私は、歴史小説が好きなのですが、時代の変わり目、転換期には、必ず「熱い想い」を持った人間が登場し、大きな役割を果たしています。これは、当社にも当てはまります。今に繋がる事業の創出や育成の場面では、諸先輩の懸命の努力と奮闘がありました。もちろん、大きなことを実現するには、会社の方針を打ち出し、組織的な対応をすることが大切であることは言うまでもありませんが、現場で頑張る一人一人の熱い想いが、実際に物事を突き動かす原動力となることは間違いありません。主役はあくまでビジネスの最前線にいる皆さんです。一人一人が、いま自分達が歴史の節目にあって、次の100年の礎を築くのだという熱い想いと高い志を共有し、新たなビジネスの構築に向けて、積極果敢にチャレンジしてほしいと思います。
◎ 新たな年に向けて
今申し上げた3つをまとめると、個人の力、すなわち「人間力」の向上ということになります。昨年、当社のボリビア・サンクリストバル鉱山プロジェクトが日本のマスメディアで取り上げられましたが、その中にあった「これは商社の人間力の賜物だ」というコメントに大いに感動しました。総合力を発揮した価値創造も、皆さん一人一人の努力があって初めて実現できるものです。各自がさまざまな課題に積極的にチャレンジし、全人格をぶつけて仕事をし、仕事を通じて成長することに喜びを見出してください。部下を持つ人は、部下が仕事に向かう動機付けをしてください。そうした努力を続けることで、お互いが成長していくと思います。
私は、一隅を照らすことができる人材が、職場にあふれている情景を思い描いています。価値創造の喜びを自ら経験し、人に伝え共有し、いつも仲間に元気を与える、そういう強く豊かな人間力を持った皆さんに、住友商事を担って欲しいと心から願っています。2010年が次の100年の転換点となるように、皆で力を合わせて頑張っていきましょう。
最後になりますが、住友商事グループ役職員の皆さんとその御家族、お一人お一人の、御健勝と御活躍を祈念して、2010年の新年挨拶といたします。
以上
※これは、2010年1月4日、住友商事グループ役職員向けに行われた年頭挨拶です。