このページの本文へ移動

文字サイズ

  • 標準
  • 拡大
広報パーソン 世界探訪記

関わる人々の情熱こそがおいしい小麦をつくるのだ

  • オーストラリア
  • メディア・生活関連事業部門
  • 食料品

2011年11月掲載

報道チーム 後藤 瑠美

2009年の入社以来所属する広報部で、生活産業・建設不動産事業部門と人事関連の報道担当として取材対応やネタの売り込みに日々奮闘中。趣味は旅行と動物を愛でることで、これまでに訪れた国は30カ国、馬に乗って過ごした時間は約100時間。いつの日か南アフリカのクルーガー国立公園で子ライオンと散歩し、双方の興味を同時に充足することを夢見ている。

オーストラリアの東側に位置する、ニューサウスウェールズ州。住友商事は、この地を拠点の一つとして全土で穀物事業を展開している。私たちの口に入る食物には、どんな人たちのどのような思いが込められているのか――それを探るべく小麦が収穫の時期を迎え始める11月、現地を訪ねた。

たっぷりの日差しと愛情が良い小麦を作る

初めに訪れたのは、シドニーから約470キロメートルの距離に位置するワガワガだ。人口6万人のこの街から車で約1時間半の距離には、住友商事の関係会社で穀物の保管事業を行うオーストラリアン・バルク・アライアンス(ABA)が運営する穀物サイロがある。どこまでも続く穀倉地帯の中、小麦の間から顔を出すカンガルーの姿に驚いていると、まさに収穫真っ最中の農家の方に出会い、話を聞くことができた。

タイヤだけで人の背丈ほどもある小麦の収穫機

豪州穀物生産農家としては中規模クラス(※)の土地で小麦を生産する彼は、収穫時期には2軒の農家仲間と協力し、収穫作業や運搬作業を行っているという。東京23区より広い耕地面積を持つ農家もあるオーストラリアではこの規模はそう珍しくないかもしれないが、くまのプーさんが住む森が100エーカーであることを思うと、スケールの大きさに感動を禁じえなかった。このような広い土地なので小麦の生育にはもちろん膨大な手間がかかるが、「いい小麦を作りたいから手抜きはしない。場所によって生育状況に差はでるが、状態を見極めて必要な処置をしてやるんだ。収穫も、畑全体がきれいな黄金色になるのをじっくり待つんだよ」とのこと。突然訪問した私にも熱く語ってくれるその姿からは、農家としてのプライドが垣間見えた。この時トラックに積まれていた取れたての小麦は、ちょうどABAのサイロに運ぶところとのことで、私たちも出発した。

豪州の穀物農家1件が保有する平均的な農地面積は2,000~2,200エーカー(約800~900ヘクタール)

オーストラリアの小麦はエリアによって色が違う。東側ではパンなどに用いられる黄色がかった小麦が採れる

ABAの細かい品質管理、ベストの状態でお客さまの元へ

ABAが内陸部で運営する13のサイロ拠点の一つである「ザ・ロック」では、到着したトラックはまず積んできた穀物をクラス分けする検査場に持ち込み、成分・品質分析を受ける。その後、計量を経て指定されたサイロに持っていったところで、管理責任はABAに引き継がれる。サイロにはタンク型、平屋型、屋外積み上げ型の3種類があるが、屋外積み上げ型でもビニールシートできっちりと包めば、3年以上品質が保てるというのには驚きだった。説明を聞いていると、先ほどの農家のトラックがクラス分けを終え、私たちの横を通り抜けていった。彼の小麦は良いクラスに分類されたのだろうか。

ABAの品質へのこだわりをより強く実感したのが、メルボルンの港湾ターミナルだ。ここでは、輸出前の砦(とりで)として非常に細かい管理が行われる。積み荷を待つ穀物はサンプルを採取され、ベルトコンベアの上に広げられて職員の目視によるチェックを受ける。穀物につく虫には体長1ミリメートル以下の種類もあり、素人には菜種と見分けがつきにくいものもあるが、複数のベテランの目が混入を阻むのだ。1匹でも見つかれば、そのサンプルが保管されていたサイロ全体が薫蒸処理される。サイロの容量は大きいもので1万トン以上、使われるガス量やかかる日数も大変多い。内陸と港湾の双方で厳しい管理が行われているからこそ、日本に住む私たちが安全でおいしいパンやうどんを口に出来ているのだろう。

ABAの社員は約30名。繁忙期となる収穫の時期には、アルバイトの学生とともに次々と到着するトラックに対応する(写真左はオーストラリア住友商事の柳亮介)

先見性と変革マインドを合わせた経営、エメラルド

住友商事の事業会社であり、2012年2月からABAの親会社となったのがエメラルドだ。オーストラリアではシドニーに次ぐ人口を誇る都市メルボルンに本社を置き、提携先を含めると15の拠点を全豪各地に配置して、農家からの買い付けや集荷、販売を行っている。ワガワガから移動した翌日にオフィスを訪れると、2010年からの1年間で約1.7倍に人員増強したという86名のスタッフが出迎えてくれた。

エメラルドの特徴を2つ挙げるとすれば、「未来を見据えた柔軟な経営」になるだろう。同社は2010年に住友商事の出資・役員出向を受け入れ、2012年にはABAを子会社化するなど、常に改革を行いながら急成長している。アラン・ウィニー会長はこの理由について、「競合の多い穀物業界で確固たる地位を築き、持続的に成長するためには、国境を越えた集荷ソースの確保と、物流などを合わせたサプライチェーンの構築が欠かせない。そのために必要だったのは、グローバルに事業展開を行う信頼できるパートナーと、優れたインフラ基盤だった」と語ってくれた。先見性と変革マインドを合わせた経営判断があるからこそ、2004年に創業した若い会社ながら業界の主要プレーヤーになり得ているのだと感じた。

エメラルドのアラン・ウィニー会長(写真右)は「文化の違いはあるが、住友商事とはとてもうまく協力できている」と話す(写真中央はエメラルドのエグゼクティブディレクター泥谷英樹、左はオーストラリア住友商事マネージャー坂本正樹)

パートナーの成長も見据えたWin-Winな仕組み作り

また、同社は集荷の形態として、約定日の市場価格で農家から穀物を買い取る方式に加えて「プール」と呼ぶ独自の方式を提供している。この方式では、農家がABAのような穀物サイロに持ち込んだ時点で穀物の所有権はエメラルドに移転するが、代金は支払われない。エメラルドは、価格の動向を見極めながらこの穀物を市場で販売し、値決めを代行して1年以上かけて農家に還元していく。いわば「穀物の運用」であるこの方式を選択すれば、農家は規定の手数料をエメラルドに支払い、通期の市場価格に応じた商品代金を得ることができる。良いものを作った農家に、その対価がきっちりと渡るこの仕組みは、農家とのコミュニケーションを大切にし、ニーズに合わせたサービスを提供すべきと考える同社が考えた先進的な商品設計が組み込まれている。自社のみならず、提携農家の未来の持続的な成長を見据えていることが、集荷の仕組み作りにもあらわれていることを実感した。

アジアの小麦需要の40パーセント近くを支える穀物大国オーストラリア。現地を訪れて出会ったのは、安全に心を配る保管サイロのスタッフや良い穀物を作ることに情熱を注ぐ農家、そしてそんな農家の情熱を支える集荷会社だった。住友商事の穀物事業は、こんな人々がいるからこそ成り立っている――そう実感した旅だった。

メルボルン港に停泊する貨物船。ここから世界中へと輸送されていくのだ

最近よく見られている事業紹介