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広報パーソン 世界探訪記

「貯める」をビジネスに。九州の離島でリユース蓄電池の事業化に挑む

  • 日本
  • 環境・インフラ事業部門
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  • 環境

2017年4月掲載

報道チーム 深田 麻衣

2012年入社。現在は化学品、環境・インフラ、国内事業等の報道対応を担当。中学生の頃に硬式テニスを始め、大学生活のほとんどをテニスサークルの団体戦に費やし、現在も春と秋の週末の約半分は実業団の試合に費やしている。試合の翌日、毎回筋肉痛になるため、今後のスポーツライフについて考え始めた入社6年目。

鹿児島空港から約2時間バスを乗り継ぎ、さらに高速船に約40分揺られると、「甑島(こしきしま)」という離島に到着する。青くて高い空と透き通った海が広がり、いつもよりゆっくりと時間が過ぎるようにも感じられる。住友商事は、この甑島で、電気自動車(EV)の使用済みバッテリーを用いた実証事業を行っている。2016年10月上旬、実証事業の現場である「甑島蓄電センター」を訪れた。

エコアイランド化に取り組む甑島

甑島は鹿児島県薩摩川内市に属する列島で、上甑島・中甑島・下甑島の3島と無数の小さな島からなる。鹿島断崖や多様な海岸景観をはじめとする美しい自然環境が評価され、2015年3月には国定公園に指定された。

高速船で島の玄関口ともいえる里港に到着すると、黄緑色の小型車が目についた。コムスという1人乗りの超小型EVだ。薩摩川内市は、薩摩川内市次世代エネルギービジョンを策定し、再生可能エネルギーやEV、スマートハウスの市内への導入に積極的に取り組んでいる。コムスもその取り組みの一環であり、甑島をエコアイランドとして確立することで、環境保護と観光振興の両立を目指しているそうだ。

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超小型EVコムスは普通免許があればレンタル可能。エコアイランドを目指す甑島観光にピッタリ

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鹿島断崖では、約8,000万年前の地層が見られる。甑島はこれらの地理的な特徴を生かし、ジオパーク認定を目指している

 

リユース電池で目指す再生可能エネルギーの導入拡大

里港から車に乗って10分ほどで、甑島蓄電センターに到着した。旧浦内小学校の校庭に448枚の太陽光パネルと5基のコンテナが設置され、コンテナには合計36台分のEVリユース電池が入っている。

再生可能エネルギーは天候による出力の差が大きいため、発電設備に蓄電設備を併設し、出力を安定させて送配電網へ電気を流すのが一般的である。蓄電設備の設置が電力事業者の義務とされている地域もあり、再生可能エネルギーの参入ハードルを上げる一因にもなっている。

住友商事が行っている実証事業は、EVリユース電池を用いた蓄電システムを電力系統へ接続し、「ならし効果」と呼ばれる効果を活用して、複数の再生可能エネルギーの出力変動を1カ所の蓄電システムで制御しようというものだ。発電設備に蓄電設備を1対1対応で設置して制御するよりも効率が良く、中古でも十分機能し、新品より低コストなEVのリユース電池を使うことで、経済性も高められる。民間事業者が電力系統へ蓄電設備を接続するのは、日本で初めての試みである。

なお、蓄電設備は住友商事(東京都中央区)と住友商事九州(福岡県福岡市)のコントロール・ルームから遠隔制御されており、通常無人である。事業に取り組んでいるのは、国内環境エネルギー事業部の藤田康弘率いる通称「ドリームチーム」だ。東京本社と住友商事九州にそれぞれ担当者がおり、設備の運用を行っている。事業の取り進めは東京本社の担当者が主に行い、システム停止等の事態が起こると九州の担当者が駆けつけて復旧する。チームが甑島を訪問した回数は30回を超えるという。

「薩摩川内市が目指す“次世代エネルギーを活用したまちづくり”実現に向けて、そして、地球温暖化対策としても、再生可能エネルギーの導入拡大は必要不可欠です。島に再生可能エネルギーを取り入れるためには蓄電池が必要なので、実証事業の成果に期待しています」と話すのは、薩摩川内市企画政策部新エネルギー対策課対策監の久保信治氏。

実証事業では、最終的に蓄電システムを自治体が所有し、出力制御を再生可能エネルギー事業者から請け負う事業モデルの確立を目指している。補助金に頼らず、自治体が主体となって運営できる事業を確立することで、再生可能エネルギーの導入最大化を後押しする考えだ。

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コンテナ内のリユースバッテリー。バッテリーは全国各地から集められ、それぞれの横に出身県が記載されている

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住友商事九州にある遠隔監視・制御システム。東京本社にも同じものがある

 

地域活性化への期待

甑島蓄電センターでの実証事業は、再生可能エネルギーの導入促進とは異なる側面からも期待が寄せられている。地域活性化への貢献だ。

甑島には高校がなく、子供たちは中学卒業後、進学のために本土に渡る。これを「15の島立ち」と言うそうだが、卒業後も本土に留まる若者が多く、甑島では人口減少と高齢化が進み、地域の活性化は大きな課題となっている。

薩摩川内市上甑支所長の奥平幸己氏は、「実証事業が成功して島へ電力事業者が入ってくれば、雇用が創出されて地域振興につながるかもしれません。また、甑島はジオパーク認定を目指しており、エコアイランド化への取り組みという観点から、蓄電センターをアピール材料にできないかとも考えています」と、蓄電センターを通じた地域活性化の可能性に期待を寄せる。

「自分たちの住む地域をどのように盛り上げ、イキイキと生活するかは大きな課題です。蓄電センターの稼働で交流人口が増え、地域振興につながることを期待しています。また、国定公園の甑島では環境保護も大切な要素であり、蓄電センターは先進的な取り組み事例になりうると思います。この先進的な事業を、自分たちの地域で行っているのだ、と住民の皆さんに誇りに感じてもらいたいと考えています」と話すのは薩摩川内市上甑地区コミュニティ協議会会長の石原明憲氏。

旧浦内小学校の教室のひとつには事業紹介パネルや島のジオラマが設置され、施設の見学者への説明スペースとして活用されている。地域住民の理解促進のために、地元の小学生に再生可能エネルギーについて教える講座も開催されているそうだ。

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現在、甑島の電力の大半はディーゼル発電で賄っている

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長目の浜は甑島有数の景勝地で、天然記念物にも指定されている

 

「甑島モデル」を本土、そして海外へ

現在、日本では約22万台のEVが走っており、数年後には毎年1万台分ほどの使用済みバッテリーが発生するともいわれている。住友商事は、この「甑島モデル」を国内の離島や海外の小規模な電力系統などへ展開したい考えだ。同時に、実証事業で得られたノウハウを生かし、発電・送配電分離が実施される2020年を目標に、リユース電池を用いた新たな電力調整事業の確立を目指している。甑島における実証事業が、花咲き実となる時もそう遠くはないだろう。

海外においても、EVリユース電池の有効活用への関心が高まっている。ドイツの自動車メーカーであるダイムラーが15年11月に蓄電設備の建設計画を発表しているほか、16年9月にはBMWとボッシュが共同で蓄電施設の試運転を開始した。EVの使用済みバッテリーは、“事業の種”として大きな可能性があることを示しているといえる。

東京から約960キロメートル離れた小さな離島で、ドリームチームは日本で前例のない実証事業へ挑んでいる。日本においては、蓄電設備やリユース電池に関する法制度はまだ整備されておらず、実証事業を進めるには多くの困難や悩みが伴うに違いない。逆風の時もあると思うが、「EVのリユース電池を有効活用して新しい事業を創り、低炭素社会の実現へ貢献する」という志が彼らを支えている。事業の意義を確信し、新しい道を切り開こうとするドリームチームの想いを聞き、筆者自身もエネルギーをフル充電できたような気がした、甑島訪問となった。

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コンテナに書かれた「Charge Our Dreams」には、夢の実現に挑むドリームチームの志が込められている

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甑島では、最終的には電力需要の約4分の1を再生可能エネルギーで賄うという目標を掲げている

 

(おまけ)広報パーソングルメ探訪記

かつて漁業が盛んだった甑島は、海の幸にも非常に恵まれている。キビナゴが有名だそうで、スーパーマーケットではパックのキビナゴが並ぶ。昼食をとった食堂はアオサらーめんが定番メニュー。麺が緑色で一瞬驚くが、意外としっかり塩味が効いており、妙に後を引いた。寿司屋かのこは、島で養殖されているマグロを島で唯一食べられるお店だ。東京では考えられないボリュームの船盛で刺身が堪能でき、特にマグロは「フワフワで、口の中でとろける」という通常の魚にない食感を味わえる。ぜひとも現地で味わっていただきたい逸品である。

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スーパーマーケットに並べられたキビナゴ。1パック200円弱

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昼食で食べたアオサらーめん。甑島産アオサノリが麺に練りこまれている

 

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