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広報パーソン 世界探訪記

南アフリカ初の大規模風力発電所
―電力供給にとどまらない社会貢献

  • 南アフリカ共和国
  • 環境・インフラ事業部門
  • 電力・エネルギー
  • 環境

2014年2月掲載

報道チーム 中溝 葵

入社から8年間はエネルギー業界向けの金属製品の輸出を担当。2012年10月に広報部へ異動、より広く会社全体の取り組みを勉強中。学生時代に情熱を注いだ海外旅行先は15カ国に上ったが、商社へ入社したからには「仕事でしか行けないような地域にも行きたい」と海外熱はさらに上昇。アゼルバイジャン、サハリン(樺太)、マダガスカル、南アフリカ……。順調に訪問国を増やしながら、いつかは「若い頃の出会いをたどって世界一周」する夢を温めている。写真で持っている風車の模型は現地でいただいたビーズ製のもの。

高い失業率の中、繁栄するビジネス

南アフリカ共和国(以降、南アフリカ)の南東に位置する東ケープ州のモルテノという町に今年新しくオープンした小さなカフェ、ロキシーズで行われたあるインタビューにて。「私はもともとたった一台のタクシーで仕事をしていた」と町の住民、アンダ・ハバナ氏は振り返る。「この辺りは大半が農家で、需要は多くはなかった。しかし、新しい風力発電所の工事が始まってからは建設業者の足となるため、ドライバーも数名雇い、15人乗りミニバス2台を新しく購入した。ビジネスは伸びているよ」

ハバナ氏は35歳、最近結婚し、娘も生まれた。彼が生まれ育ったモルテノは、1940年代には大規模な石炭鉱山事業の町だったが、炭鉱閉山後、代替産業は発生しなかった。今ではこの町の失業率は90パーセントともいわれ、多くの住民は国からの補助を頼りに生活しているようだ。しかしロキシーズのように常連客が毎日訪れる新しい憩いの場や、ハバナ氏のような成功ストーリーが少しずつではあるが、聞こえてくるようになった。2011年、町の郊外で予定される新しいプロジェクト、ドーパーウィンドファームの事業者が、地域住民を集めて説明会を開催して以来のことだ。

常連客の憩いの場となっている2013年にオープンしたロキシーズカフェ

南アフリカの電力事情

アフリカ大陸は「最後のフロンティア」と呼ばれて近年脚光を浴びているが、多くの国々で、経済発展の妨げの主要因の一つとして、圧倒的な電力不足が挙げられる。多くの石炭資源が確認されている南アフリカは、かつては世界で最も電力料金の安い国として知られていたが、加速する経済成長に新規発電所建設が追い付かず、ここ数年は電力不足による電力供給制限が行われている。このような状況の中、南アフリカ政府は発電能力増強の一つの柱とするため、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの活用に向けて動き出した。従来、風力や太陽光発電は、老朽化した火力発電所の置き換えなどにより、温暖化ガスの排出量を減らす方法として、先進国が中心となって導入を進めているイメージが強い。再生可能エネルギーが南アフリカの電力不足の救世主となりえるのだろうか。

南アフリカエネルギー省は、これまで電力エネルギーの85パーセントを石炭発電に依存してきた状況から脱却すべく、2011年8月に、2014年までに3,725メガワットの再生可能エネルギーによる発電能力を確立するためのREIPPPP(再生可能エネルギー独立系発電調達制度)と呼ばれる計画を導入。国のエネルギー源を多様化し、将来にわたって国内の石炭消費量を減らすことで、一部を外資獲得に繋がる輸出に回せる、という相乗効果への期待も見え隠れする。また、国の温室効果ガス排出量を削減する一助ともなる。

住友商事が南アフリカで取り組むドーパーウィンドファームの所在地

ドーパーウインドファームの誕生

このプログラム導入の動きを察知して、再生可能エネルギーを中核事業の一つとしている住友商事は、南アフリカのパートナー、レインメーカーエナジーと提携し、東ケープ州における100メガワットの陸上風力発電所の入札に挑んだ。2011年12月には優先交渉権を取得し、羊や牛が放牧されている広大な土地に2.5メガワットの風力タービン40基を建設するため、本格的に交渉を開始した。海岸に面した最寄りの空港から車で内陸に3時間進んだこの地方原産の、顔から首まで黒い独特なカラーリングの羊「ドーパー」種は、プロジェクトの名前と風力発電事業会社のロゴマークのモデルとなった。粘り強い交渉の末、2012年11月には国営の電力会社、エスコムと正式に売電契約締結に至った。

それから約1年後、また建設開始から8カ月後、2013年10月に建設現場を訪問した。その時は18基目の風力タービンの2つ目のブレードが、タワーに装着されようとしていた。国内では初めての大規模風力発電所だったため、建設機械も十分にそろっておらず、タービン建設のためのクレーンまで輸入しなければならなかったそうだ。サイトは、終日吹き続ける強風が発電所設立地として選択された理由だった一方で、建設にあたっては、強すぎる風は妨げとなっていた。風が強すぎればクレーンの使用を中止せざるを得ないため、風速を細かく管理し、工事は頻繁に中断されていた。無風なら30分で完了する1枚のブレードの取り付け作業も、その日は2時間以上かかっていた。

ドーパーウィンドファームのロゴマーク

あまり目にすることのない建設中の風車

それでも、再生可能エネルギーの利点の一つは、構築時間が比較的短いことである。大規模な石炭やガス火力発電所は3-4年かかることは珍しくない一方で、風力や太陽光発電所は容量にもよるが、最近は2年以上かかることはめったにない。また風力発電タワーは一基が完成すると、必要あればすぐにでも電力供給を始められることが特徴だ。

建設された風車とドーパー羊

電力供給に加えて、期待される経済効果

南アフリカのREIPPPPの一つの特徴は、入札者がビジネスプランに、黒人経済権限付与計画(Black Economic Empowerment、以降BEE)を含めることが必須である点だ。政府はこれまでアパルトヘイト時代に不利だったグループを経済的に優遇するため、BEEプログラムを開始した。

「住友の事業は、住友自身を利するとともに、国家を利し、社会を利するほどの事業でなければならない」という、住友の事業精神にも通じるこのプログラムは、60パーセントを保有している住友商事としても、取り組むにあたって重要な側面である。
プロジェクト会社の株の25パーセントはBEEの持ち株会社の持ち分となっており、地元社会の発展のためのファンドで資金構成されている。さらに、風力発電所の利益の2.1パーセントは、地域経済の活性化のために使用することが義務付けられる。ヨハネスブルグ支店長代理の早川泰蔵はこの2.1パーセントの使い方について、コンサルタントと相談しつつ、一つのアイデアを温めている。「この地域では、黒人に最も人気のある鶏肉の価格が他の地域よりも高い。ここに住む人々が安価でおいしい鶏の育て方を身につけることができれば、彼らの手によって運営し、地元に供給できるビジネスに繋がるのではないか」

南アフリカの政策の下、日本の商社と地元企業が組み、ドイツメーカーの発電タービンで最新鋭の風力発電所を貧困に悩む地域に設立する。このような国際的なチームの協働によって、2014年に稼働開始する風力発電所。一方でこのプロジェクトの根底にある信念は、2013年12月に亡くなったマンデラ元大統領の、過去に不利益を被ったグループにも平等に経済的チャンスが与えられるよう、という願いにも通じるものがある。このプロジェクトが開始することによって、モルテノがかつての炭鉱町として繁栄した頃の面影を取り戻す日も遠くないだろう。

ヨハネスブルグ支店が入居する複合施設の入り口にそびえ立つネルソン・マンデラ像

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